かつて某ゲーム制作専門学校に伝説の講師がいた。


23歳という若さで外部講師として教鞭をとった彼は、これまでの専門学校教育とは全く異なった視点から、学生の指導に挑んだ。「ゲームセンターで遊ばないやつは、ゲーム業界には絶対行けない」「これからのゲーム業界には、プログラム技術よりもコミュニケーションスキルが重要だ」など、後世に残る名言も多い。


彼のもとで学んだ学生たちのほとんどが、志望したゲーム業界で花咲いている。


今回は、ゲームアプリの開発を手がけるアミューズエンターテインメント(東京・千代田区)の斉藤隼人社長のもう1つの顔、専門学校の外部講師時代の話を聞いた。

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23歳で専門学校講師!伝説の講師はこうして生まれた

―斉藤社長は専門学校の講師を行っていたそうですね。

 2012年で、私が23歳のときだったと思います。

アミューズエンターテインメントを起業して3年目で、アプリゲームもバンバン開発していた時期です。そういったなか、ひょんなことから外部講師になりました。


―どういった経緯で外部講師になったのでしょうか。

 私も、その専門学校の第1期の卒業生でした。

ゲーム企画科というゲーム制作のプランニングについて学ぶ学科です。

卒業後も、卒業生や講師、生徒と交流がありました。

そこで、卒業生に向けて外部講師を募集していることを知りました。ただ、卒業生の多くが企業に勤めていて、平日に専門学校で講師になることが難しい。

その点、私は起業していた関係で、スケジュールが自由に組めました。そのほかにもいくつかの条件が重なり、気付けば外部講師になっていたんです。

―正規の講師ではなく、外部講師の募集だったのですか。

 今、エンジニアという職種には、非常に様々な能力が求められています

プログラムの技術だけではなく、設計に関する知識や、折衝・交渉時のコミュニケーション力、プレゼンテーションスキルも必要です。そういったことを教えることができる講師って実はなかなかいないんですよね。

専門学校の正規の講師は、教科書の知識を教えることはできますが、応用ができません。

「あるゲームを作ろうとしたとき、そもそもどういった設計で、どういったロジックが必要なのか」を考えることができない。

なぜなら、専門学校の講師の多くに、業界経験がないからです。外部講師の方が詳しいケースがよくあります。

逆に私は、教科書の知識を教えるとはできませんが、現場で求められる知識やノウハウを教えることができました

学生の、甘い幻想を打ち砕く…ッ!!

―どのような授業を担当していたのでしょうか。

 週1日、午前2コマ、午後1コマを使って、「ゲームプランニング」と「ゲーム制作」という授業を受け持っていました。

「ゲームプランニング」では、ゲームプランナーとはどういう仕事なのか、どうやって仕事が生まれるのか、を教えていました。

―実際に、ゲームプランナーってどういう仕事なのでしょうか。

 ゲームプランナーは、ゲームエンジニアの進行やスケジュールの管理、デザインの発注などが主な仕事です。「プランナー」という名前ですが、実はプランニングの仕事は、プロジェクト初期以外はほとんどありません。

「作りたいゲームを企画して作る」といったこともほとんどありません。大体のプランナーは、現場でゲームの開発スケジュールやリソースを管理する作業をしています。

本来、ゲームをプランニングするのはゲームプロデューサーです。プロデューサーがゲームを企画し、プランナーが細かい仕様や設計、デザインを決めていきます。

しかし、専門学校に入ってくる生徒は、そういった業界の構造を知りません。すぐにゲームを企画できると思っている。いきなり「ドラクエ」を作ろうとしますから(笑)。

「ゲームプランニング」は1年生から受ける授業で、入学したばかりの学生にそういった甘い考えを捨てさせることが目的です。

―甘い幻想を持っている学生に、現実を教えると。

 業界の構造を教えるとともに、「まずはプロデューサーになることを目標にしよう」と伝えます。プロデューサーになるためには、プレゼンテーションスキルや仕様設計を決めていく能力が重要であることも教えます。

授業の後半では、個人でオリジナルのゲーム企画を作らせます。それを実際に作っていくのが、もう1つの「ゲーム制作」という授業です。

ゲームセンター遊びを教える!?破天荒講師の真意とは

―斉藤社長はどのような講師だったのでしょうか。

 1年生の第1回目の授業で、必ず言うことがありました。

それは、「真面目に授業を受けるだけではなく、どんどんゲームセンターで遊べ」ということです。そして「どういったゲームで遊んだのか。何が流行っているのかを報告して欲しい」と伝えていました。

―勉強だけではなくゲームセンターで遊ぶことをすすめていたのですか!?

 ゲームセンターには、遊ぶ人のアドレナリンを分泌させるために、様々なエフェクトや音響、工夫が詰まっています。ゲームセンターのしかけを研究し、どのような技術が必要なのかを考えることも、ゲーム制作にはとても重要な視点です。

―ゲームセンターで学べることも多いと。

 ゲームセンターにあるゲームは「遊ぶ人がどういった目的で楽しむのか」という部分でも、各社が試行錯誤をしています。

例えば、「音ゲー」と呼ばれる音楽に合わせて遊ぶゲームでは「上手くプレイしている姿を周りの人に見て欲しい」というプレイヤーの要求があります。「音ゲー」は、設置場所にもかなりこだわっていたりします。観客がつきやすいような設置場所だったりしますよね。対戦型の格闘ゲームでは、負けたプレイヤーに配慮して対戦相手の顔が見えないようになっています。

ゲームセンターの構造には意味があり、それを学ぶには学校の勉強だけでは難しいと感じていましたから。

―これまで何人の学生を教えてきたのでしょうか。

 1学年生徒30人で、5年やっていましたので、合計で約150人です。

教え子の中には、ゲーム会社に就職して今も一緒に仕事をしている人や、ゲーム雑誌に載るような人もいますね。

伝説の講師が感じた生徒の変化

―28歳のとき、外部講師を辞めた理由はなんだったのでしょうか。

 説明が難しいですね。

きっかけは「学生と話が合わなくなった」と感じたことです。

「どういったゲームを作りたいか」と聞いたとき、スマフォゲームといった漠然とした回答が多くなってきました。システム面で自分でも作れそうなゲームしか企画しないんです。これって実はプランナーとして企画について考えてないんですよね。

その世代にとってのゲームは、与えられた目標やゴールをクリアして、手軽に達成感を覚えることができるモノだったんだと思います。

私やそれ以上の年代は、小さいときに難しいゲームをプレイし、攻略法を自分たちで探していました。ゲームに対する価値観が全く違う。

こういった素養は、ゲームに対する価値観だけではなく、授業に対する姿勢でも現れます。こちらが与えた課題を、質の低い状態で提出してくるパターンが増えてきました。プランナーを目指しているはずなのに、本当にゲーム制作が好きなのかな…と。とても空虚な感覚でした。

―ある時期からか、学生の性質が変わってきたのでしょうか。

私は、学生であっても、なにかに本気になっていなければ駄目だと考えていました。

趣味を聞いたとき、漫画や映画、何でも良いので答えられるようでなければいけません。

外部講師になった1年目の学生は、クラスの生徒ほとんどが趣味を持っていました。しかし、年々趣味を持たない学生が増え、正直「つまらないな」と感じていました。

怒られないように生きていく学生も多かった。でも、怒られても良いじゃないですか。ズル休みする学生もいない。生真面目な学生ばかりでした。もちろん、これらは悪いことではないんですよ。学生としてはあるべき姿だと思います。ただ僕らは、ゲームを作るクリエイターでもあるんです。少しくらい変な奴の方が面白いじゃないですか。

―斉藤社長が社会人として生徒を見たとき、たとえ成績が良くても人間味がない学生には魅力を感じられなかったのかもしれません。

 先ほど伝えたような、ゲームセンターに遊びに行く学生も激減しました。遊びを知らない学生は、新しい演出や工夫などが生まれにくい。ゲームという人を楽しませるモノを作る人間が、知ろうとしないのにプランナーとしてはやってけないですよね。

そういったこともあり、虚しさも感じていました。

―外部講師時代の経験が、現在の企業経営に活きている部分はあるのでしょうか。

 私が担当していた学科に入学する学生は、「ゲームプランナーになりたい」という明確な意思を持った学生もいれば、「プログラミングや開発なんてしたくないけれど、なんとなく入学した」という学生もいました。

後者の学生は、学ぶ姿勢が低く、楽をしようとすることも多い。他の学生にも悪影響を与えることもあります。

そこで、「やる気のない学生を徹底的に排除する」というスタンスを貫きます。すると、やる気のない学生は焦るんですよね。専門学校って高校卒業後に来る生徒も多い。今までの環境とは違うと認識させることが大事です。やる気のない学生はもちろん、能力が中間ぐらいの学生も授業に熱心に取り組むようになる。そうやって、前のめりになった学生の能力を伸ばしていました。

こういった経験は、現在の人材教育にも活きている部分かもしれません。


取材の前半部分はここまでだ。

斉藤社長が講師として学生たちに、真の教育を行ってきた姿勢が見えてきただろう。

次回は、斉藤社長が外部講師時代、国も推奨している産学連携として行っていた、面白い取り組みについて紹介しよう。

▼後編記事▼

 
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