■書名:不動産格差 

■著者:長嶋修

■出版:日本経済新聞出版社

■定価:850円+税

今後、日本の不動産は三極化するという。具体的には「価値維持あるいは上昇する 10~15%」「徐々に価値を下げ続ける 70%」「無価値あるいはマイナス価値に向かう 15~20%」という内訳だ。

主だった理由は、人口減少や少子高齢化である。それは本書を読むまでもなく周知の事実だろう。しかし、そういった事態を踏まえ、どういった不動産を買えばいいのか。どういった不動産は売るべきなのか、について言及されていることに本書の価値がある。

第2章「どこに住むか」が明暗を分ける」では、不動産の立地の重要性を説くとともに、今後顕著になっていく自治体間での行政サービスやインフラの格差問題を取り上げている。また、各自治体が取り組んでいる「立地適正化計画」によって、「活かす街」「捨てる街」に2分される可能性があることや、どういった地域が立地適正化計画から外されるのかについて触れている。

「災害が予想される地域」が真っ先に計画から外される、という観点から例として挙げたのは東京都世田谷区だ。おおむねの標高が30メートルの世田谷区だが、一部の地域では浸水の可能性があるという。「現在、こうしたリスクは多くの場合で価格に反映されていません。しかし、ひとたび立地適正化計画区域から外されてしまえば、不動産としての資産評価、金融評価には天と地の開きが出るでしょう。」と、都内の一等地でさえそういった危険性をはらんでいることを訴えている。

買う、売る、所有する。といった不動産との関係において、これまでのように不動産会社や住宅関連企業に任せきり・言いなりになる時代は終わるかもしれない。

上記した、立地についての調査に関して、本書では「市区町村役場の都市計画課に直接赴く」「議会の議事録を確認」「地域住民にヒアリング」といった一般消費者でもできる方法を提示している。また、自宅を高く売る方法としても、同じ駅や地域での同価格帯の物件をピックアップし、「それを見に行ってみましょう」「その際には、「駅までの距離と道のりの安全性や快適性」「建物の見栄え」「日照や通風」「周辺嫌悪施設の有無」「間取りの使いやすさ」など、~略~比較してみましょう」と述べ、不動産会社、仲介会社に購入相談や売り出しを依頼する前に、我々ができることが結果として資産価値や住宅の未来に大きな影響を与えることを伝えている。

著者である、長嶋修氏は、「本書が、あなたと不動産との関係をより幸せに結べるよう、何らかのお役に立てば幸いです。」と述べている。一見社交辞令の様な文章だが、不動産との関係をより意識することが、今後の不動産格差社会の乗り切る重要なマインドなのだと感じた。

敬称略

 
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