第1回

Ⅰ.はじめに

 国際相続の問題は、移民や国際結婚の増加に伴い、必然的に増加している。国際相続は日本の相続に関する法律問題のみならず、日本と諸外国の登記制度等の差や租税法の問題が複雑に絡み合い、非常に難しい法的手続が必要になる。

 たとえば、100年前に日本からカナダのケベック州に移住し、カナダ国籍に帰化した日本人の方が日本に土地を残して遺言なくしてケベック州で亡くなったとする。この方の共同相続人(カナダ人)の相続分は日本法に従って決せられるのか、カナダ法(またはケベック州法)によって決せられるのか。日本とカナダの法定相続分(遺言がない場合に適用される)が異なるため問題となる。

 

Ⅱ.国際相続の私法関係いずれの国の国際私法によるのか

上記のように、一つの事件(相続)に関し、当事者の国籍、住所、婚姻挙行地、目的物の所在地、行為地など、法律関係を構成する要素のいずれかが複数の国にまたがり、それぞれの国の法律の内容(相続分)などが矛盾する場合、どの国の法律を適用して解決するかを定める必要がある。

このようにどの国の法律を適用して解決するか、の基準を定める法律を国際私法といい、我が国では法適用の通則法といわれる。

それではどの国の国際私法を適法して解決をするか、それは基本的に問題を解決する為に必要な国の国際私法ということになる。

例えば、共同相続人がいずれもカナダに住んでいて、カナダで相続に関する争いが生ずればカナダの国際私法によって解決され、共同相続人がいずれも日本に住んでおり、日本で争いが生ずれば、日本の国際私法によって解決されることになる。

究極において、その国の裁判で解決されるのであるから、それ以前においても、その国の裁判所の判断の基準となるその国の国際私法によって判断すべきであるともいえよう。

では相続人の一人がカナダに、もう一人が日本に住んでいるような場合はどうか。この場合には争いの解決を求める法の国ではなく、争いの相手方の国で裁判を行わなければならないのが原則であり、カナダに居住する相続人が、日本に居住する相続人との紛争の解決を求める場合には、相手方の相続人の所在地である日本に訴えを提起しなければならない。この場合の法廷地は日本であり、日本の国際私法によって相続分が定められることになる。このようにして日本の国際私法(法適用の通則法)が適用される場合、相続は被相続人の本国法によって定められる(法適用の通則法36条)。

次回は、カナダのケベック州で亡くなった被相続人の方の本国法は、その方が国籍を有するカナダ法なのか、その方が長年に渡り居住していたケベック州法なのか、について考える。                               以上

 
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