第4回

 

Ⅰ.はじめに

国際相続の問題は、移民や国際結婚の増加に伴い、必然的に増加している。国際相続は、国際私法の問題のみならず、日本と諸外国の登記制度の差や租税法の問題等が複雑に絡み合い、非常に難しい法的手続が必要になる。

本稿では、前回の記事で検討した内容を前提に、遺産の分裂の問題についての判例を紹介する。

本件は日本に長年居住していた中国人がなくなり、その腹違いの子どもたちが残された日本の不動産と動産の相続持分を巡って争いになった。結局不動産については日本民法の相続分により、株式については中国継承法により、相続分を定めるということとなった。

本件は、被相続人が昭和43年(1968年)と40年以上も前に亡くなっているため、2次相続、3次相続が生じ、その間に日本の民法が改正されて、昭和57年(1980年)以降、妻と子どもが相続人の場合の妻の相続分が3分の1から2分の1に増加している。

以前に述べたように、通則法36条は「相続は、被相続人の本国法による。」と規定し、被相続人が死亡時に中国籍であるため、被相続人の相続は第一義的に中国法によって定まる。

ところで、中国継承法は昭和60年(1985年)に交付されたものであるが、中国継承法の司法解釈(中国では法律と同一の効力を有する)上、「人民法院が継承法の発行以前に受理していたが、発行時には未審決の相続事件に対しては、継承法が適用される」とあるので、施行前の昭和47年(1972年)の被相続人の相続についても、中国継承法が適用される。

この中国継承法36条は次のように規定する。すなわち、「中国公民は、中華人民共和国境外の遺産を承継する場合、または中華人民共和国境内の外国人の遺産を継承する場合、流動資産(動産)は、被継承人(被相続人)所在地の法律を適用する。不動産は、不動産所在地の法律を適用する。」

この規定はいわゆる相続分割主義を採用し、動産相続については被相続人の住所地法、不動産相続については不動産所在地法をそれ適用するため、本件のように被相続人の住所地も、不動産の所在地も日本である場合、中国法(中国国際私法)の適用によって、日本民法によって相続分が決められる。

日本の民法上の配偶者の相続分が昭和57年(1980年)の民法改正によって同年以降増加していることは先述のとおりである。

これに対して、中国の継承法は相続分について、次のように規定する。すなわち、「遺産は下記の順序に従って継承する(第10条1項)

第一順位:配偶者、子女、父母

第二順位:兄弟、祖父母、外祖父母

 同一順位継承人(相続人)の遺産分の継承は一般的に均等とする(第13条)。

 なお、本件で適用された継承法36条にいわゆる動産に株式が含まれるか、不明確であったところ、2011年4月1日施行された新しい中国国際私法である「渉外民事関係法律適用法」31条は、次のように規定し、本件のように、被相続人の住所地も株式の所在地も日本である場合、日本法が適用されることを明らかにしている。

すなわち、「法定相続については、被相続人の死亡時の常居所地法を適用する。ただし、不動産の法定相続については、不動産の所在地を適用する。」としている。

そして、この渉外民事関係法律適用法についても司法解釈がだされており、それによれば、「渉外民事関係法律適用法の施行後に発生した渉外民事紛争事件のうち、本解釈施行後に最終審が未了のものについては、本解釈を適用する」とある(「中華人民共和国渉外民事関係法律適用法」の適用における若干の問題に関する最高裁人民法院の解釈(一))(2013年1月7日施行)ので、2011年4月1日以前の相続についても、争いが裁判で確定していない相続については、この渉外民事関係法律適用法によるのであって、本件とは結論が異なることに注意を要する。

 

 

Ⅱ.遺産分裂の問題

1.判例の事案の概要

 この点に関する裁判例東京地裁平成221129日判決の事案は次のとおりである。

 日本に長年に渡り居住していたA男(被相続人、出生時は中華民国国籍、その後、中華人民共和国国籍を取得)とE女との間の子であるB女を母親とするX1及びX2(日本国籍)がAとC女との間の子であるY(中国籍)に対して、Aが死亡時に所有していた日本国内にある不動産の相続分の確認(本訴)を求め、YがX1およびX2に対し、Aが死亡時に所有していた株式の持分の確認(反訴)を求めた事案である。

 A(昭和43年東京で死亡)は、昭和2年(1927年)に中国山東省にてCとの間に慣習にのっとり婚姻の儀式を行い、その間にYをもうけた。

 他方昭和7年(1932年)AはE(昭和42年に死亡)と横浜にて立ち合いの下で結婚式を挙行し、その間にB(中国国籍、昭和63年死亡)を設けた。

Eは挙式の当時、日本国籍であったが、昭和21年に日本においてAとの婚姻届けを出し、これにより中華民国の国籍を取得し、日本の国籍を喪失した。

 X1とX2は、Bとその夫であるD男(中国籍、平成15年死亡)との間の子である。

 

 

 

2.判例検討

(1)判決

 本件相続不動産および本件株式の相続分に関し、X1及びX2の相続持分がそれぞれ6分の1、Yの相続持分が3分の2であることを確認する。

(2)理由(不動産の相続)

 Aの不動産に関する相続については、法適用に関する通則法(以下、「通則法」36条(同法附則により通則法施行前についても適用される。)により、「被相続人の本国法」が適用されるが、中華人民共和国継承法36条1項は、同法施行前に開始し、施行時に未処理であった本件相続(昭和43年(1968年)3月2日)にも適用される結果、本件不動産所在地法である日本法に反致される(通則法41条)。

 昭和55年改正前民法900条1号は「子及び配偶者が相続人であるときは、子の相続分は、3分の2とし、配偶者の相続分は、3分の1とする。」としており、同規定はAの相続分にも適用される。

 Cは、死亡した際には中華人民共和国国籍であったから、中華人民共和国継承法36条により、本件不動産所在地である日本法に反致される。

 A死亡時において、CはA配偶者であり、Y及びBはAの嫡出子であるから、C、B及びYが本件相続不動産の相続分を各3分の1の割合で取得し、Cの死亡により唯一の相続人であるYがCの相続分を取得する。

 Bは、死亡時における国政は中華人民共和国だったから、その相続については通則法36条により、中華人民共和国法が適用されるが、中華人民共和国承継法36条1項により本件相続不動産については所在地法である日本法に反致され、BがAから相続した分を、配偶者であるDが2分の1、子であるXらが各4分の1の割合で相続する(民法900条1号)。

 Dの死亡時における同人の国籍は中華人民共和国であったから、その相続については通則法36条1項により本件不動産については所在地法である日本法に反致され、子であるXらが各2分の1ずつの割合で相続する(民法900条1号)。

 したがって、本件不動産については、Yが3分の2、Xらが各6分の1の割合で相続分を取得する。

 

(3)株式の相続

 中華人民共和国継承法は、動産の相続については、被相続人の住所地を適用するとしているところ、Aの住所地は日本であるため、株式が動産であるとされると日本法に反致され、債権については特段の規定がないので(中華人民共和国継承法第5章参照)、中華人民共和国法が適用され、反致は生じない。

 そこで、株式が動産と債権のいずれと解されるかが問題となるが、中華人民共和国法上、株券は債権と並んで相続の対象となる有価証券として扱われており(中華人民共和国の執行を貫徹する若干の問題に関する最高人民法院の意見3条「公民が相続できるその他の合法的財産には、有価証券及び履行の目的物が財物である債権等を含む。」)、債権と同様に反致は生じないものと解される。

 ア したがって、株式の相続については中華人民共和国継承法10条1項ないし3項及び13条1項により、配偶者、子(嫡出子、非嫡出子を含む。)及び父母が、均等の割合で相続するものであり、A死亡により、C、Y及び父母が、均等の割合で相続するものであり、C、Y及びBが各3分の1の割合で相続する。

イ 死亡時に中華人民共和国国籍であったC死亡により、CがAから相続した持分は、全て子であるYが相続する(中華人民共和国継承法10条1項ないし3項、13条1項)。

 ウ 死亡時に中華人民共和国国籍であったBの死亡により、BがAから相続した持分は配偶者であるD,子であるXらが、Bが相続した分を各3分の1の割合で相続し、死亡時に中華人民共和国国籍であったDの死亡によりDがBから相続した持分は、子であるXらが、各2分の1の割合で相続する(中華人民共和国承継法10条1項ないし3国、13条1項)。

 エ したがって、Aが保有していた本件会社の株式に関して、Yが3分の2、Xらが各6分の1の割合で相続分を取得している。

 

 

Ⅲ.終わりに

 以上、4回にわたり、不動産が絡む国際相続の準拠法の問題について検討した。

 国際相続の問題は、準拠法指定、外国法の問題など、複雑な問題が生じるため、このような相続手続を行うに際しては、専門家の助言を求めることが推奨される。

 

 

以上

 
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