モンゴルにおける医療ビジネス(土地利用について)
2016.6.3
Ⅰ.はじめに
モンゴルでは、国民所得の伸びに従って、医療、治療等健康関連への関心が高まってきている。
しかし、施設環境、医療技術のレベル等の問題を抱える状況から、富裕層は、韓国、シンガポール、タイ等で治療を受けるために渡航する例が増加している。
病院経営においても、ハード面では近代的な施設、設備機器の充実・強化が喫緊の課題であり、多くの病院が投資を募るために苦労している状況である。また、ソフト面では治療以前の診断、事後のリハビリテーションへの対応不足、また、医師不足、治療技術の高度化への対応も迫られている状況である。
このような状況から、日本企業にとって、新病院建設、病院拡張等に対する投資、総合病院等における医療事業、医療活動等のメンテナス事業といった分野は、有望な進出分野となっているspan class=”MsoFootnoteReference”>[1]。
加えて、日本のODA実施機関であるJICAも、安倍内閣の重点政策である日本再興戦略等を踏まえた貢献が求められており、これを受けてJICAは、モンゴルに80億円を無償供与して教育病院を建設することとしており、このことから、モンゴルにおける保健医療分野への民間分野を支援する基盤も整っているといえる。
もっとも、モンゴルにおいて日本企業が進出し、現地において病院建設等を行うためには、現地の土地が不可欠である。
そこで、本稿では、日本企業によるモンゴルにおける土地利用の可能性につき検討する。
Ⅱ.モンゴルにおける土地規制
1.所有権
モンゴル民法(以下、「民法」という。)によれば、所有者は、法律または契約によって与えられた他人の権利を侵害しないことを前提に、法律によって定められた範囲内で、自己の裁量により所有物を自由に占有し、使用し、処分する権利を有し、かついかなる侵害からも保護される権利を有する(民法101条1項)。
不動産の所有権は、登記により発生し、また消滅する(民法110条)。他方で、動産に関する所有権は、占有移転により発生し、消滅する(民法111条1項)。
2.外国人による土地所有の禁止
モンゴル憲法(以下、「憲法」という。)によれば、モンゴルの土地、自然資源は、モンゴル国民の支配と国家の保護下にあり(憲法6条1項)、モンゴル国民が所有するものを除く土地、下層土、その資源、森林、植物、水資源、動物は国が所有し(同条2項)、牧草地、公共用地と国家専用地を除く土地は、モンゴル国民のみが所有することができ、国民が、その所有する土地を、外国人または無国籍者に所有権を移転する行為及び国の権限ある機関の許可なくして、他人に占有させ、使用させる行為は禁止されている(同条3項)。
また、土地法によれば、モンゴル国民が所有する土地を除く土地は国家の所有であり(土地法5条1項)、牧場、公共施設用地並びに国家専用途用地を除く土地は、モンゴル国民のみが所有することができるとされている(同条2項)。
したがって、外国人及び外国企業は、土地を所有することはできない。
3.外国人による土地の占有と使用
モンゴル法には土地の占有と土地の使用という概念がある。
土地の占有とは、契約に定める用途、条件、約束に従って、法の許す範囲内で土地を自己の管理下に置くことをいい(土地法3条1項3号)、土地の使用とは、法の許す範囲内で土地の所有者または占有者と結んだ契約の定めに従って、土地の自分にとって有利な性質を引き出して利用することをいう(同項4号)。
では、外国人または外国投資企業は土地を占有することができるのか。
土地は、モンゴルの18歳以上の国民と企業が、土地法の定めるところに従い占有し使用することができる(土地法6条1項)。外国投資企業はモンゴル法人であるから、土地の占有者になり得るはずであるが、土地法6条3項によれば、外国人、外国企業、外国投資企業は、明確な用途、期間、約束、契約及び国の許可に基づき、法令の定めに従って、土地所有者となることができるにすぎない。
したがって、モンゴルにおいて、外国人、外国企業、外国投資企業は土地の占有することはできず、土地を使用することができるにとどまる。
4.土地使用契約
上記のとおり、外国投資企業は、モンゴルの土地関連の法令に定める条件と手続に従って、契約に基づき、土地使用者となることができ(土地法6条3項)、土地を、法律の定める条件に従って、特定の目的のために期限付で使用することができる(同法44条5項)にとどまる。土地使用契約には、土地を使用する根拠、土地の用途、面積、境界を示す図面、使用期間、土地使用料とその支払い期間、契約当事者の権利義務、土地使用期間満了後において当該土地の施設、その他財産の処分に関する合意事項などを記載する必要がある(同条8項)。
土地使用期間は5年を超えることができず、更新後の期間も5年を超えることはできない(土地法44条6項)。
なお、2013年に成立した投資法12条1項1号によれば、投資家は、土地を60年まで使用・占有することが認められるが、そのためには、土地法の改正が必要となる(同法12条2項)。しかし、いまだ土地法の改正がなされていないため、上記土地法の定める期間内によってしか、土地の使用は認められない。
Ⅲ.取り得る方策
以上みてきたとおり、現時点において、日本企業によるモンゴルにおける土地利用は極めて限定されている。このような状況からすれば、日本企業単独でモンゴルにおける事業を展開することは極めて非現実的であり、土地所有、及び長期間の使用が可能な現地法人との提携が不可欠であるといえる。
したがって、モンゴルに進出する日本企業は、現地における、信用できるパートナーを見つけ、パートナーと共に事業を行うことが唯一の方策となる。
以上
[1] JICA「モンゴル投資ガイド」