経年減価による一律評価が中古住宅の流通拡大を阻害する

新築中心の「フロー型住宅市場」から、中古住宅が循環利用される「ストック型住宅市場」へ ――

スクラップ・アンド・ビルド(古くなれば解体し、建て直してしまう)からの決別を掲げた「住生活基本法」が2006年6月に策定されてから丸10年が過ぎました。マイホームは個人の「私有財産」であると同時に、地域を構成する「社会資本」でもあるとの認識に立脚し、既存住宅とリフォームの一体化プランの構築、中古住宅向け瑕疵(かし)保険の創設、加えて住宅税制による国の後押しも下支えとなり、新築住宅の偏重傾向は一定の改善を見せています。

とはいえ、日本の中古住宅の流通シェアは14.7%(2013年)。アメリカの同90.3%(09年)、イギリスの同85.8%(09年)、さらにフランスの同64.0%(09年)と比較しても見劣り感は否めません。一体なぜなのでしょうか?―― 新築供給の偏在が継続する理由は、次の2点と私は考えます。

  1. (1)一律、経年減価によって建物価値が決定付けられ、中古住宅が適正に評価されていない。

  2. (2)建物に内在する「隠れた瑕疵」に対し、買い主が抱く不安を払拭できていない。

しばしば「建物の価値は20年も経つと、ほとんどゼロに等しくなる」と言われるのは、建物価値が一律的に経年減価されて評価されるからです。省エネ性能の向上や耐震リフォームを施しても、売却時の価格査定には反映されません。不動産仲介の実務では、駅からの距離や専有面積、日当たり(建物の向き)、築年数などによって、ほぼ決まってしまいます。

と同時に、「新しいもの好き」「消費は美徳」といった新品志向の国民性が災いし、「古い」=「汚い」「すぐに壊れそう」といった連想(先入観)も中古住宅を遠ざけます。表現を変えれば、欠陥が見つかった場合のセーフティネット(買い主保護)が未整備と言い換えることもできます。“安心の担保”なくして、中古流通の飛躍的な促進は不可能なのです。

中古住宅の売買で適用される法令は「民法」と「宅建業法」のみ

そこで、安心の担保に一役買うのが「売り主の瑕疵担保責任」です。瑕疵担保責任とは、契約の目的物に隠れた瑕疵が存在した場合、売り主が買い主に対して負う責任のこと。根拠法としては、(1)民法、(2)宅地建物取引業法(宅建業法)、(3)住宅の品質確保促進法(品確法)、(4)住宅瑕疵担保履行法 ―― この4法構成で瑕疵担保責任は成り立っています。

しかし、ご存じのように品確法と住宅瑕疵担保履行法は“新築住宅のみ”が対象となります。そのため、中古住宅の売買で適用されるのは民法と宅建業法となり、この2つの法律を根拠法に瑕疵担保責任の適否を問うことになります。

まず、原則規定として不動産売買における売り主の瑕疵担保責任は、特約のない限り民法の規定が適用されます。瑕疵を発見した時から1年間、買い主は損害賠償と契約解除についての権利を行使できます。修補請求(欠陥部分の修理依頼)は含まれませんので、ご注意ください。

そして、売り主が宅建業者(不動産会社)の場合は宅建業法が適用されます。「強行規定」である宅建業法が「任意規定」である民法に優先するからです。中古住宅の引渡し日から最低2年間、売り主には瑕疵担保責任(損害賠償あるいは契約解除に応じる責任)が課されます。このケースは中古住宅を自社で買い取り、リフォーム後に再販するリノベーション業者などとの売買が該当します。

個人間売買に宅建業法は適用されない

では、売り主が一般個人の場合はどうなるでしょうか?――

買い主も一般個人となる「個人間取引」の場合では、仲介業務に宅建業者が介在しても、宅建業法は適用されません。民法の原則に戻ることになります。瑕疵担保責任に関する民法の規定は当事者間の合意で変更できる「任意規定」のため、売り主と買い主の間で自由に瑕疵担保責任の内容を取り決められるようになります。

たとえば、以前に私が契約立ち合いした中古マンションの個人間売買のケースでは、以下のような契約内容になっていました。

『売り主は買い主に対して本物件の隠れた瑕疵に関する責任を負います。ただし、その瑕疵は建物の専有部分における雨漏り、シロアリの害、および給排水管の故障に起因する隠れた瑕疵に限るものとし、その瑕疵が敷地または共用部分に存する場合、瑕疵の責任を負いません。なお、その責任の範囲は修復に限るものとし、買い主は契約解除または損害賠償の請求はできません。また、売り主に修復責任の履行を請求できる期間は引渡し日から3カ月以内とします』

売り主・買い主どちらにも一定の配慮を示し、バランスのとれた内容に感じました。隠れた瑕疵の範囲を具体的に例示し、買い主の権利行使を修復責任のみに限定するなど、解釈に誤解が生じにくい条文に仕上がっています。また、売り主が瑕疵担保責任を負う期間については「3カ月」としています。

買い主が宅建業者の場合、個人の売り主は瑕疵担保責任を免責される

では最後、今度は売り主が一般個人、買い主が宅建業者の場合、瑕疵担保責任はどのように扱われるでしょうか?――

結論から申し上げて、この場合、売り主は瑕疵担保責任を免責されます。民法に規定する「契約自由の原則」に基づき、「売り主は瑕疵担保責任を負わない」という特約が有効に機能するからです。そもそも、プロである宅建業者に対して、一般個人が責任を負うのは合理的といえません。資力に乏しい個人の売り主に瑕疵担保責任を課そうとする業者がいたとしたら、その業者は疑ったほうがいいでしょう。

結論として、本稿のタイトルである「一般個人である売り主が瑕疵担保責任を負わずに自宅の中古住宅を売却する方法」=「宅建業者に買ってもらう」というのが答えです。

「その分、成約価格が引き下げられるのではないか」と心配する人もいるでしょうが、都心の中古マンション市場においては、足もと、「売り手市場」が継続しています。あくまで私の経験測ではありますが、当面、一般個人の売り主は“強気姿勢”で問題ないと感じています。

 
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