毎週水曜日配信、「カジコンの不動産業界地獄耳」。
業界歴21年、不動産会社専門コンサルタント 梶本幸治さんが、不動産業界で見た・聞いた話を紹介します。

第1回目の今回は、先祖代々大切にしていた土地のお話です。ご先祖の華々しい功績によって賜った土地は、今もなお価値はあるのでしょうか?(リビンマガジンBiz編集部)。

先日、「着物の買い取り」をしている方とお話しする機会がありました。着物ってなかなか売れないってご存知でしたか?

その方曰く、「おばあちゃんが亡くなる前に、お金に困ったらこの着物を売りなさいと言い残された着物の殆どが、買い取り不可なんですよ~」とのこと。「ん~ん?」どっかで聞いたような話だなと思っていたら、知り合いの不動産会社さんから伺った話で、似たような出来事を思い出しました。

今日はそのお話です。

私の知り合いの不動産会社さんは、会社のホームページに「不動産の買い取り致します!」と、でかでかとうたっておられます。ある日、そのページをご覧になった方から、「先祖伝来の土地があり、もし買い取って貰うなら、いくらになるか知りたい」とご依頼があり、来店していただくことになったそうです。

「先祖伝来の土地ってことは地主さん?もしそうならビジネスチャンスだから粗相のないようにしなきゃ」と、不動産会社さんはちょっと緊張気味にお客さんを待っていました。そうこうしているうちに、お客さんが来店されました。齢60くらい、渋めのスーツをビシッと着こなし、白髪をオールバックに撫でつけた紳士です。

その紳士は挨拶もそこそこに、先祖伝来の土地の由緒について語りだしました。

紳士の話によると、鎌倉時代にその地方の豪族だったご先祖は、後醍醐天皇の挙兵に呼応して討幕軍に加わり、大きな戦果を上げ、朝廷より土地を拝領したそうです。それが今回の買い取り査定物件です。

紳士のご先祖はその後も、南朝方の豪族として地方でにらみを効かせ、南朝崩壊後も豊臣秀吉や紀州徳川家から厚く遇されて…などなど。土地とは直接関係のないことも含めて、何とも壮大な大河ドラマが40分ほど続きました。群雄割拠を生きた紳士のご先祖のエピソードは、買取価格に影響を与えたのでしょうか!?

不動産会社さんは申し訳なさそうに告げました。

「弊社の買い取り価格は…5万円です」

その回答を聞き、先ほどまで雄弁だった紳士は、口を閉じ寂しげに帰って行かれたそうです…。

後醍醐天皇から賜った(と、お客さんが信じている)土地は、山の中にある土地で買い手がつくような物件ではありませんでした。不動産会社さん曰く、「幕府軍を迎え撃つには良い土地かも知れないけど、平成の世の中では活用方法が無いからなぁ・・・。“討幕に兵を挙げるには最適の立地”ってチラシに書いても誰も買わないしなぁ(笑)」。

まさに諸行無常。

(画像=リビンマガジンBiz編集部)

財産だと思っていた着物や不動産が、実は全然値段の付かないものだったなんて寂しい話ですよね。

まぁ、価格がつかないだけで価値が無いってことではありません。大切に使っていただき、次の世代に継承して貰いたいものです。またいつか、倒幕で使えるかもしれませんので。

 
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