毎週水曜日配信、「カジコンの不動産業界地獄耳」
業界歴21年、不動産会社専門コンサルタント 梶本幸治さんが、不動産業界で見た・聞いた話を紹介します。

不動産を買う理由は人ぞれぞれ、時にはよこしまな気持ちで買ってしまう人も・・・?(リビンマガジンBizの編集部)

知り合いであるCさんは、当時不動産会社の営業課長を務めていました。ある日、その営業課に新卒社員が配属されました。この新卒くん、子鹿のような小心者で、常にビクビクした様子だったそうです。

新卒くんは、お客さんを担当させてもまともな提案ができず、同期入社の新人と比べて一歩も二歩も出遅れていました。そこでCさんは、新卒くんを「オープンハウスの待機要員」として起用することに決め、オープンハウスに来場されるお客さんに対応する中で、営業スキルを身に付けさせようと考えました。

オープンハウス当日、新卒くんが予定よりも早く事務所に帰ってきました。あまりに早い帰社を訝しんだCさんが新卒くんに声をかけると、思いがけない台詞が返ってきました。

「今日のオープンハウスなんですけど…購入のお申込みを頂きました…僕はどうすれば良いですか」

購入の申し込みをされたお客様は50代半ば頃の女性で、値引きの交渉もなく現金で購入されるとのこと。あまりの好条件に驚いたCさんでしたが、現金での購入なら住宅ローンの手配等、難しい段取りもない為、そのまま新卒くんに契約の手配を命じました。

契約日当日、女優の麻生祐未さん似の、美人ですが少し影のある清楚な女性が、真っ白な「つば広帽子」を被って来社されました。Cさんが契約のご挨拶を兼ねてお客さんの話を伺うと、5年前にご主人が他界され、その遺産でマンションを購入するとのこと。随分と新卒くんの接客を誉めていたそうです。

その後、契約から引渡しまでが無事完了しました。新卒くんもこれを契機にボチボチと営業マンらしくなっていきました。

(画像=写真AC)

しかし、お引渡しから半年ほどたった頃、そのお客さんからCさんに電話が入りました。お客さんは激高されており、電話口でこう怒鳴られたそうです。

「おたくの新卒くん、契約後は毎月1回、住み心地の確認のために訪問してくれるって約束だったのに、先月も今月も来ないじゃないの!どういうことなの!」

月に1回、住み心地の確認という話は聞いたことがありません。早速新卒くんを呼び出して事情を確認しました。

新卒くんは小さな声でポツリポツリと語り出しました。

「営業成績が伸びず焦っていたんです。同期はどんどん仕事を覚えていくのに、僕だけ取り残されたようで。あのお客さんはご主人を亡くされ、僕と同じで孤独で寂しそうでした。優しくしてあげたいと思い、月1回お伺いする約束をしました。でも、お客さんの要求がだんだんエスカレートしてきて、僕のことをペットのように扱いだし、それが怖くなったんです」。

「ペットのような扱い」がどのようなモノだったのかは敢えて聞きませんでした。新卒くんは次の異動で転勤になることで、なんとか騒動は収まりました。後日聞くところによると、この新卒くんは学生時代、短期間ではありましたがホストのアルバイトをしていたようで、年上女性に取り入る術はそこで身につけたようです。

Cさんは「そんな対人折衝能力があるのなら、正当な営業で活かしてもらいたいよ…」と愚痴っていました。

私が若い頃(まぁ、今でも充分若いつもりですが)、先輩から聞かされた言葉で印象に残っている台詞があります。

「家を売れる奴は、女にモテる。しかし、女にモテる奴が、家を売れるとは限らない」

家を売る為には、お客様の夢やネック事項等を徹底的にヒアリングする必要があります。それだけヒアリング能力に長けた者なら、女性の気持ちに寄り添う風を装う事ができるからモテる。しかし、単に格好良い!イケメン!なんて

理由で女性にモテている奴は、家が売れるとは限らない。
この言葉の意味が、理解できたような気がしました。

ちなみに、私が現役の不動産営業マン時代は、「たいして家も売れず、たいして女性にもモテない奴」でした。トホホ・・・。

 
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