毎週水曜日配信、「カジコンの不動産業界地獄耳」。
業界歴21年、不動産会社専門コンサルタント 梶本幸治さんが、不動産業界で見た・聞いた話を紹介します。

成功者、と呼ばれる人たちにも欠点の一つや二つあるものです。今回は不動産投資に成功したサラリーマンのお話です。(リビンマガジンBiz編集部)

(画像=足成)

「家賃収入で食べていけたらなぁ」なんて、一度は考えたことってありますよね。
今、投資不動産市場は沸きに沸いており、夢の不労収入生活を実現すべく投資不動産を購入するサラリーマンが後を絶ちません。

しかし、不動産の経営って思っているほど簡単ではありません。「運」と「センス」が必要なのです。しかし中には、「不動産の神様に愛されている」としか言いようがないくらい「運」に恵まれた方もいらっしゃいます。

私の知り合いのDさんは、投資物件を専門に扱う不動産営業マン。毎日、良い物件を求めて日本各地を飛び回っています。

ある日、珍しくDさんがオフィスでくつろいでいると1本の電話がかかってきました。電話を取ると中年男性の低い声が受話器から聞こえてきました。

「お宅の会社のホームページに載っている○○市の5,000万円の物件を買おうと思うんだけど、一度ウチに来てくれない?」

その日、特にスケジュールの入っていなかったCさんは、スグに男性のお宅を訪問することにしました。

教えた貰った住所に着くと、そこには築後40年は経過していると思われる賃貸アパートが建っています。お客さんのお宅は最上階とのことでしたので、オンボロのエレベーターに乗り込み最上階へ。

玄関のチャイムを押すと、芥川賞作家の西村賢太さん似で50代ぐらいの男性が出てきました。おそるおそる部屋の中に入ったCさんは、驚きで声を上げそうになりました。ボロボロの外観からは想像できないほどフルリノベーションされており、住宅設備も最新式、家具も高そうなものばかりです。

早速、購入する物件の話になりました。なんとこのお客さん、現金で5,000万円を支払うと言うのです。電話を貰って駆けつけたら5,000万円の現金購入の話・・・いったいこのお客さんは何者かと思い、Dさんはお客さんの名刺が欲しいと伝えました。

お客さんは、面倒臭そうに名刺入れを取り出すと右手の人差し指と中指で名刺を挟み、Dさんに差し出したそうです。そこには大手企業の社名と、「主任」の肩書が書いてありました。

Dさんは内心「えっ?普通のサラリーマン?なんで5,000万円も現金を持っているの? 50歳くらいなのにまだ主任なの?」と思ったそうです。その一瞬の表情の変化を、お客さんは見逃しませんでした。

お客様は口元にニヤリと薄ら笑いを浮かべると、饒舌に語り出しました。

「サラリーマンが5,000万円を現金でってオカシイと思ったでしょ?でもね、僕ね、若いころからずっと不動産投資をしていてお金はあるんだよね。僕って人付き合いが嫌い…っていうか人間が嫌いだから、家賃収入で食って行きたいって学生時代から思ってたんだよね。はじめはさぁ、小さな分譲マンションからスタートしたんだけど、買う物件買う物件、どれも購入価格より高く売れちゃってさぁ」

お客さんは息継ぎもせず話続けます。

「このビルも僕の持ち物なんだよね。だから金はあるの。でもさぁ、人間が嫌いだから出世はできなくて、今でも主任だし、上司の課長は年下だし、その課長には毎日毎日怒られるし、嫌になるよね。でもね、でもね、課長っていっても年収は700万円くらいなんだよね。たったの700万だよ。僕なんて5,000万円以上の家賃収入があるのに、年収700万円が5,000万円に説教するなんてありえないよね。馬鹿だよね。くずだよね。僕は買う物件がドンドン高値で売れてお金持ちになったのに、課長は小さな一戸建ての住宅ローンをアクセク返してるんだよ。悲惨だね」

一気に語りきったお客様の唇の端には、白濁した唾液が溜まっていたそうです。

このお客さんの毎日の楽しみは、社員旅行で撮った写真に写る課長の姿と、自らの貯金通帳を交互に見ながら発泡酒を飲むこと・・・らしいです。
Dさんは、「投資家になろうって人は少なからずマネーモチベーションが他の人より高い方が多いけど、このお客さんはちょっと歪み過ぎって言うか・・・違う世界に行ってしまってたよね」と語ってました。

え?このお客様はその後、実際に5,000万円の物件を買ったのかどうかですって?すみません。そこまで聞いてませんでした。

「白濁した唾液が溜まっていた」って話を聞いた辺りで気持ち悪くなってしまい、その後の話を聞く気力が失せましたので。

 
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