皆さん、こんにちは。公認会計士・税理士・中小企業診断士の金井です。今回は第5回目のコラムになります。今回は、「相続税と不動産の法人化」についてお話しようと思います。

このごろ不動産オーナーへの相談業務を行っていると、「不動産の法人化を銀行に薦められた」という不動産オーナーさまをよくお見受けするように思います。というのも不動産の法人化というスキーム自体は決して真新しいものではないのですが、所得税や相続税といった個人に課せられる税金はより増税されていく傾向にありますから、「税金の節税のために不動産を法人化して税金を安くしましょう」という営業文句はより増えていくのではないでしょうか。しかしどうして税金が安くなるのか、法人化によってどのような不具合が生じるのかよくわからないまま法人化を実行しようとしてませんか?

不動産の法人化のメリット

では不動産の法人化によってどんなメリットがあるのでしょうか。建物を個人所有から法人所有とすることで、賃料収入に課税される税目を、所得税から法人税にチェンジされます。所得税の税率は住民税に合わせて15%~55%の超過累進税率です(さらに復興特別所得税が別にかかります)。一方建物を法人所有にすることで、賃料収入の課税される税が法人税となります。法人税の税率は地方税と合わせて30%台前半で、かつ年々下がっていく傾向にあります。賃料収入を増税基調にある所得税から法人税に切り替えることで、個人で55%課税されていた不動産オーナーなら賃料収入に課税される税額は半分近くになることも考えられます。

不動産法人化が危険な理由


さて法人化の手法にも税務リスクがあります。まず節税以外に何らメリットの認められない不自然・不合理な取引には「行為計算否認規定」の適用があります。また、法人化を否認する方法として「建物の譲渡価額」を否認する手法があります。建物を不動産オーナー個人から法人に譲渡するに際して、譲渡価額が時価と比べて高すぎるあるいは低すぎるということで、課税処分を下すことが可能なのです。

銀行がなぜ法人化を薦めるのか

銀行がこうした法人化スキームを推進することには理由があります。建物の所有権を個人から法人に譲渡するにあたり、法人が建物を買い取らなければなりません。この買い取る資金を融資するビジネスが銀行側の狙いになります。また売却によって得た売却代金で資産運用を薦めるなど、銀行側からすれば自分たちのビジネスに繋がりやすい、とても都合のいい話なのです。一方彼らは自分の商品のデメリットについてはほとんど口にしないので、やはり注意が必要です。

税金を安くすることが資産防衛につながるか

不動産の法人化というスキームの全てが悪いというわけではありません。このスキームも資産の防衛で意味を持つ場合はあります。例えば個人の不動産オーナーの意思決定能力が、認知症などで失ってしまったり、不動産の共有によって管理処分の意思決定が進まなくなってしまうといったような、不動産経営の意思決定において大きな効力を発揮します。

しかし、節税対策といったキーワードには本当に注意が必要です。節税対策として提案する先が必ずしも税法に詳しいわけでもなく提案している危険性が非常に高いからです。その結果節税対策と称した不動産や金融資産に手を出してしまって不動産経営に失敗したという例も多いのです。


 不動産オーナーが何より大切にしなければならないことは、自分の資産の防衛だと私は考えます。不動産による収入によって生計を立てているわけですから、資産の防衛がキャッシュフローの維持に直結します。節税対策によって税務負担が軽減されることは大きな魅力ですが、リスクやデメリットといった大きな落とし穴にはまって先祖代々の土地を手放してしまう破目になります。節税どころか資産を失いかねない大きな代償を払うことになるのです。

 
  • line
  • facebook
  • twitter
  • line
  • facebook
  • twitter

本サイトに掲載されているコンテンツ (記事・広告・デザイン等)に関する著作権は当社に帰属しており、他のホームページ・ブログ等に無断で転載・転用することを禁止します。引用する場合は、リンクを貼る等して当サイトからの引用であることを明らかにしてください。なお、当サイトへのリンクを貼ることは自由です。ご連絡の必要もありません。

このコラムニストのコラム

このコラムニストのコラム一覧へ