5月31日は世界禁煙デーである。世界保健機関(WHO)が定めた日だ。

正確には、本日より一週間は禁煙関連のイベントや情報発信などがされるとのことで、世界禁煙ウィークということだ。

今や喫煙者に安住の地はない。オフィスや飲食店は言うに及ばず、路上でもタバコは禁止。いずれは自宅からも追い出されるだろうと思っていたら、実際にそう言い出す人が現れた。小池百合子東京都知事が率いる都民ファーストの会が、家庭内や公園、子供が同情する車中について罰則も含めた受動喫煙対策をぶちあげたのだ。ついには家の中でも、自由にタバコは吸うな、というわけだ。厳しい。

折りにも国会では、飲食店での喫煙を原則禁止にする健康増進法改正が議論されている。議論がどう転ぼうが、今後ますます肩身の狭い立場におかれるであろう、愛煙家の皆様方にご同情申し上げる次第だ。

家の中でも吸えない「ホタル族」が現れる

そもそも法律や条令で規制しなくとも、自宅内でタバコを吸える人は減ってきているのではなかろうか。20年ほど前からだろうか、「ホタル族」という言葉もでてきた。自宅であっても、室内ではタバコを吸わせてもらえず、ベランダで寂しく煙を吐き出す、そんなお父さん方のことを指す言葉。日が落ちてくると、暗いベランダにたたずむお父さんの姿は見えなくなり、タバコの火だけが赤く見える。この光景が、まるでホタルのようだというわけである。なんとも悲しい呼び名である。

実際に室内での喫煙は、不動産価格にも著しく悪影響をあたえるらしいので、ベランダ喫煙を命じる奥さんの方が正しいのだが。

思えば、このところの禁煙運動の盛り上がりは、お父さん方の権威失墜と相似をなしてはいなかっただろうか。バブル以降の不景気とグローバル化の波は、お父さん方を直撃した。職場ではリストラにおびえ、通勤電車では痴漢えん罪の危険にさらされ、一家の主としての誇りはとうに捨てざるを得なかったのだ。喫煙場所の減少は、お小遣いの減額と同様に、お父さん方が持っていた権利を奪われ続けている、その証左ではないだろうか。これ以上の撤退は、さらなる権利の収奪を予感させる。

ここら辺で、闘争を挑むべきではなかろうか。「ワンコインランチで我慢してんだ。タバコぐらい自由に吸わせろ!」そう叫ぶべきではなかろうか。

でも、ダメだろうな。「タバコをやめればお小遣いを上げてもいいわ」という話になるだろうしな。

世界禁煙デーを受け、タバコを吸い込むお父さん方の背中が、ますます小さく見えるのであった。

ベランダに追いやられるホタル族

 
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