私が銀行員として、住宅ローンを担当していたときのことです。あるお客様が住宅ローンの借り換えの相談にやってこられました。話しはトントン拍子で進んだのですが、いざ登記簿謄本を取り寄せてみるととんでもない事実がわかりました。

 お客様のお住まいになっている住宅の前面道路が開発業者の名義のままになっていたのです。更に厄介なことに、その業者はすでに倒産し、連絡の取りようも無いという状況でした。お客様はその住宅を購入されてから、前面道路のことなど気にされたこともありませんでした。見た目はアスファルトで舗装されたごく普通の道路です。毎日そこを通って家に出入りされていますが、これまで何のトラブルもありませんでした。当然、そこは誰もが自由に通行できる道路だと認識されていました。ところが、実際にはそこは業者の名義の土地だったのです。さらに、厄介なことにその業者はすでに倒産し、もはや連絡の取りようも無くなっていました。

 銀行では住宅ローンの融資にあたり、対象の物件だけでは無く前面道路についても調査します。前面道路が国や地方公共団体などが管理・修繕を行う公道か、個人や法人が管理する私道かは大きな違いがあります。もし、私道であれば水道やガス工事のための掘削や通行のためには所有者から承諾書や通行掘削費用を請求されることもあるのです。通常は開発にあたり、業者が道路を通した後、市町村などへ移管され公道となることが多いのですが、それでも私道部分の分筆や、所有者の同意、抵当権の抹消など多くの時間と、費用、労力が必要になります。

 こうしたいい加減な事例はまず無いと思いますが、何かの行き違いでこうした不幸な出来事が発生しないとは限りません。住宅ローンを利用する際には銀行もこのあたりをきちんとチェックします。対象の物件だけでは無く隣接地、当然前面道路についてもきちんと登記簿謄本で確認を行います。銀行にとっても担保物権の前面道路が私道であるのは好ましく無いからです。

 しかし、人間の仕事には必ずミスがあります。悪意はなくとも、こうした不幸なアクシデントに遭遇してしまう可能性もあるのです。かといって、お客様自身が不動産の細かい知識を身につけるわけにもいきません。だからこそ、不動産の取引は信頼できる業者に任せることが重要なのです。

 
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