1.相続は突然やってくる

 「泣く泣くも良いほうをとる形見分け」という川柳がありますが、相続のリアルな現場はテレビドラマさながらです。

 相続の予行演習はありません。突然やってきます。いざ「相続」となり、死亡届を出すと、預金口座は原則出金禁止となり、葬式代の支払いに困るケースも出てきます。また、基本的に遺産分割協議(または同意書)が整うまでは、相続人の口座は出金ができなくなります(銀行により法定相続分は出金できるケースもあります)。

 

2.「相続税関係ないからトラブらない」とは限りません

相続税は基礎控除額(3000万円+法定相続人数×600万円)ですから、資産がこれを上回らなければ相続税の申告・納税は不要です。しかし、相続税の支払いが不要というのと、遺産分割の話はまた別ですね。残された財産をどう分割するのか、現金と不動産のどれを誰が受け取るのか、お金や生活が関わることなのでそう簡単にはいきません。遺言・法定相続・遺産分割協議のいずれかが必要という点では、相続税がかかる場合と大差はないといえます。

 

3.相続税がかかる場合のスケジュールはかなりタイト

先の基礎控除額以上の財産をもつ方が亡くなった場合、相続人は死亡後(死亡を知った日から)10ヶ月以内に、相続税の申告と納税まで済ませないといけません。この財産には死亡により受け取る生命保険金や、相続人が被相続人から過去3年以内に贈与された財産も加算されます。

 遺言がなければ、相続財産の分割協議書を決定してから相続税の資金手当てをし、申告納税を済ませる、というのはかなりタイトなスケジュールです。財産分与の話し合いがスムーズにいけばいいですが、各相続人には配偶者や弁護士・税理士・相続アドバイザーと称する人々がついていろいろな入れ知恵をしますから、最近ではスムーズに財産分与がきまる方が稀といえるかもしれません。一般的には、相続の割合よりも不動産の評価(自分がもらう不動産が安いからもっとほしい)でもめることが多いです。

 納税資金も現金があればいいですが、通常は一部不動産を売却して手当というケースも多く、そうなると売却期間が必要です。一般的に不動産の売却には3か月程度は必要ですし、境界が確定していない不動産などの場合はさらに時間がかかります。

 被相続人が亡くなるという悲しみの中で、相続人はこれらの作業を淡々とこなしていかなくてはならず、その心労は想像に難くありません。

 

 4.後顧の憂いをなくすためには

 「早めに」、「オープンに」、「知識をもって」これに尽きます。

 遺産分割において、複数の不動産がある場合に不動産の分与の計画で大事なのは、まずどの不動産を居住用とし、それを誰が引き継ぐのかという問題です。通常は配偶者の方と子のどなたかというのが多いと思います。

その次に居住用に残す不動産以外の不動産をどう分与していくかですが、ここで「なるべく公平に」となると、それぞれの評価が必要となってきます。最初の段階ではそれぞれの不動産の固定資産税の評価をベースにすればいいと思いますが、賃貸物件だと収益性の問題もあります。収益物件については、家賃の年収を8%前後の数値で割り戻す簡略法でもいいと思いますが、必要に応じて不動産鑑定士などの専門家の力を借りた方がいいかもしれません。

大切なのは、被相続人が主体的に「早めに」動くことです。スポーツと同じで、監督がいるうちは選手をコントロールできますが、監督がいなくなると選手のコントロールができなくなるものなのです。

 

 「オープンに」は非常に大切です。相続でもめるのは、お互いの根底に疑心暗鬼があるからですが、生前から「オープンに」しておくことで疑心暗鬼を払拭することができます。親と同居する子と別居の子がいる場合、同居の子は生活費として親のお金を使いますね。

これはある意味当然なのですが、いざ相続となると、別居の子は「親の金を使い込まれてたんじゃないか」といぶかることが多いです。一方で同居の子の方は「親の面倒は押しつけて金だけくれなんて」となって憎しみの連鎖です。客観的には、ちょっとした気遣いで生前から通帳の中身をオープンにして、今年はこれだけ使ったよと言っておけば防げるトラブルと思うのですが。

 

「知識」に関しては、相続税で土地は路線価、建物は固定資産税評価での評価となりますが、同居している親族の方がいれば小規模宅地の特例を適用できるため、例えば居住用の宅地でも330㎡までは80%軽減が受けられます。その他、賃貸用不動産も軽減措置がありますから、これら特例措置の内容を把握し、どう活用するかも大切なポイントです。

 
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