2016年9月に、東京都の小池知事より、空き家を活用した保育所整備などに補助金を支給する「待機児童対策」が発表されました。空き家や空き店舗などを借りて保育施設を始める事業者に、家賃の4分の3(上限年4,000万円)を5年間補助するというもの。社会問題にメスを入れようと試みるこの新たな施策、空き家の扱いに困っている家主にとっても、前向きに捉えるべきニュースではないでしょうか。


ただし、保育園開業までの道のりには高いハードルが存在します。


1、立ちはだかる「用途変更」の壁


民家を保育園にするには、どんな手続きが必要なのでしょうか?保健所、消防署等への届け出はもちろんのこと、不可欠なのは「用途変更」の手続きです。保育施設でない建物に保育施設が入居するということは、土地の用途が変わるということ。「快適な生活環境を守る」という方針のもと、建物の面積が100㎡を超える場合には、建築基準法の定めに基づき、用途を変更するための確認申請の手続きが必要になります。そして用途変更の確認申請を提出するには、申請の対象となる建物全体が建築基準法に則った「適法」の状態であることが条件となります。以前に建てられた建物で、建築時点では法律に適合していたものの、法改正などにより現在の法律に適合していない建物のことを「既存不適格建築物」といいます。多くの建物がこの「既存不適格建築物」であり、現状のまま用途変更をすることができません。所有する空き家が「既存不適格建築物」の場合、現在の法律に適合するよう改修を行なう必要があります。




2、開業までの手続きを滞りなく済ませるには?


・専門業者への代行依頼
「開業に向けてせっかく準備したのに、用途変更の承認がおりない!」ということのないように、餅は餅屋ということで、建築士やその他専門業者へ相談してみましょう。開業のためには、先に述べた各種届出の他、「周辺エリアの調査」「事業計画の策定」「施設内外のレイアウト設計、施工」「保育士の確保」「開園へ向けた集客」などが必要になります。準備に漏れのないよう、開業までの流れをあらかじめ把握して取り組むことをおすすめいたします。


・NPO法人への物件提供
近年、待機児童問題の解決を目的として活動する団体が増えてきています。そのひとつであるNPO法人フローレンスは、自治体から補助金を受けながら、半官半民の施設「おうち保育園」を運営しています。「おうち保育園」は、2010年に江東区マンションの一室からスタートしたミニ保育園。待機児童の多い地域で、マンションの空き室や一軒家の空き家、空き公務員宿舎などを使って低コストで運営されており、現在、東京・仙台で15箇所の拠点があります。順次拠点を拡大しており、活用できる物件を募集しているようです(http://florence.or.jp/action/realestate/)。

※利用可能な物件の条件として、建築物及びその敷地が建築基準関連規定に適合していることを証明する「検査済証が発行されていること」が挙げられています。検査済証がないと用途変更の手続きを行なうことが出来ませんので、注意が必要です。

準備に手間がかかるものの、保育園事業は比較的初期投資金額が低く、利益率が高いため投資回収率(ROI)が高いと言われている魅力的な事業です。都内に空き家を持つ方は、活用の選択肢として検討されてはいかがでしょうか。

 
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