「借りぐらしのアリエッティ」(2010・日本)
監督:米林宏昌
脚本:宮崎駿、丹羽圭子
出演:志田未来、神木隆之介、大竹しのぶ、竹下景子、藤原竜也、三浦友和、樹木希林、他

arrietty-31arrietty-31 / Amal FM

主人公の翔

生まれつき心臓が弱い主人公の翔は、1週間の療養のため母親が育った屋敷にやってきた。そこで小人のアリエッティを見つける。小人たちの棲み処は、屋敷の縁の下で、彼らは人間の家から生活に必要なものを借りる「借りぐらし」をしていた。人間に決して見られてはいけない、という掟を破ってしまったアリエッティとその家族は、棲み処を移すことを決める。しかし、好奇心と向こう見ずな性格の持ち主のアリエッティと、優しい心を持った翔の距離は次第に縮まっていく。その一方で、アリエッティたちには大きな危機が迫っていた―。

映画「借りぐらしのアリエッティ」は、スタジオジブリ制作による米林宏昌氏が初監督した長編アニメ映画だ。小人と人間という、種族の壁を越えた交流を描いている。

舞台となる屋敷は洋館だ。外壁はツタに覆われ、建てられてから随分と経っていることが伺える。また、縁の下(アリエッティの棲み処があるのでよく登場する)を見ると、石の土台に柱が建つ日本伝統構法の「石場建て」であることから、ハウスメーカーが大量生産しているような家の構造とは全く違う建物なのだろう。

築年数が古いことと、この家の構造が、小人と人間が共存できる環境だ。小人の目線で見る人間の家は、恐ろしく巨大で広大だ。屋敷には様々な隙間や凹凸があり、小人たちはそこを行き来する。飛び出た釘やツタを足場にして「借り」を行うのだ。父親とともに「借り」に出かけ、初めて台所に着いたとき、アリエッティは「なんて大きいの…」感嘆の息をついた。

小人の世界をうまく表現しているのが効果音や音響だ。
人間の日常の生活音や、台所で唸る冷蔵庫のモーター音などは、小人にとって騒音だということを、巧みに表現している。

arrietty-112arrietty-112 / Amal FM

終盤のワンシーン

小さい少女と、大きな男の子という設定を聞くと、内田春菊氏の漫画『南くんの恋人』を彷彿とさせる。『南くんの恋人』に出てくる小人になってしまった少女ちよみは、いつも南くんに頼りきりで生活を送っていた(元が人間だから仕方がないかもしれないが)。しかし、アリエッティは違う。気をかけようとした翔に「私たちに関わらないで」と、自分たちが誰の手も借りずとも生活できることを人間に伝えるのだ。

手術を控えた翔が「君は僕の心臓の一部だ」とアリエッティに言う。これはアリエッティの強い信念が伝わり、自身も生きることを前向きに考えるようなった心の現れだ。

小人と人間、その大きさや種族は違えど、ともに懸命に生きる姿をこの映画は描いている。

 
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