今回は、私がAさんから依頼を受けた自筆証書遺言書の検認のお話をしたいと思います。Aさんの姉が死去し、姉には配偶者も子もおらず、法定相続人はAさんとAさんの兄弟であるB、Cさんでした。Aさんは死去したAさんの姉と一緒に仲良くくらしており、B、CさんとAさんの姉は、疎遠な間柄でした。
 ところで自筆証書遺言は、「検認」という手続きを経なければなりません。これは、家庭裁判所で 遺言書を開封し、その形状や、加除訂正の状態、日付、署名などを確認し、遺言書の偽造・変造を防止するための措置です。
 家庭裁判所で検認が行われた際は、Aさんに相続させる建物の記載は登記簿通り、「居宅、木造瓦葺弐階建、床面積・・・・・・」と完璧になされており、遺言書には何の問題もないように思えました。

 無事検認が終わって、電車で事務所に帰っておりました。電車の中で再度確認をしてみたところ、遺言書の中で土地については全く触れられていないことに気づきました。

 建物の敷地をAさんに相続させるという記載がどこにも見当たらないのです。まり、遺言書を合理的に解釈するのであれば、Aさんに単独で相続させるのは建物だけであり、言及されていない敷地については、他の相続人にも相続させるのが被相続人の意思であるということができます。その場合、敷地については、他の相続人も法定相続分に応じて持分(所有権)を持つことになります。
 そもそも、一般的に築年数の古い建物はほとんど資産価値がありません。資産として重要なのはむしろその敷地のほうです。このケースでも、家そのものの価値はゼロに等しいものでした。
 また、Aさんは、敷地もあわせて単独で相続しなければ、建物の登記を移すことができません。そのままの状態が続けば、他の相続人から、
 「土地を売っぱらって、現金にしてみんなで分けよう、だから家を収去して明け渡してくれ」と求められるおそれがあります。
 したがって、被相続人がAさんに家を与えるために遺言書を作成したのであれば、敷地についても忘れずに記載しておくべきだったのです。
 それを失念してしまったのは、おそらく、被相続人が市販されている遺言書のマニュアル本をもとに、遺言書を作成していたからなのでしょう。被相続人の死後、その本棚から「遺言書の書き方」というようなタイトルの本が見つかり、中には付箋がいくつも貼られていました。
 そのようなマニュアル本に掲載されている遺言書サンプルなどをただ漫然と書き写してしまったり、あるいは多少アレンジして流用したりなどすると、重大な書き落としや間違いがあっても、なかなか気づかないものです。
 この事例では、自筆証書遺言を作成したあと、弁護士のような法律の専門家に、遺漏や過ちがないかをチェックしてもらうか、さもなくば最初から公正証書遺言で作成するべきでした。公正証書遺言であれば、公証人から「敷地に関する記載はないですが、よろしいのですか?」などと指摘されていたはずであり、本ケースのような大きな過ちは間違いなく避けられたはずです。

 
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