■作品:〈狭さ〉の美学 草庵・茶室・赤ちょうちん■著者:近藤 祐■四六判 / 219ページ / 並製
■定価:1,800円 + 税
■ISBN978-4-7791-7088-1 C0321
■奥付の初版発行年月:2017年04月
 ■書店発売日:2017年04月14日

本書『<狭さの美学>』は、サブタイトルに「草庵・茶室・赤ちょうちん」とあるように、「狭い建物」だからこその「良さ」について解説をしています。

平安時代の歌人 鴨長明は、現在の四畳半よりすこし広いぐらいの一間、「方丈庵」で晩年を送りました。一見、窮屈な生活を想像しますが、そこで寝起きするだけではなく、つぎ琵琶や折琴といった趣味の楽器を置く余裕さえもありました。
安土桃山時代、茶道を確立した千利休は「茶室」を独自の様式として完成させます。その広さは四畳半、なかには二畳という極小のものがあったそうです。
そして現代、居酒屋の「赤ちょうちん」は広いテーブル席ではなく、狭いカウンターこそがメイン座席です。
これらの建物に共通する「狭さ」は、決してマイナス要素ではありません。

さて、私たちが、マイホームを選ぶとき、広い家と狭い家ではどちらが良いでしょうか?
「ホームパーティーができるような広いリビングがあったらいいな」
「子ども一人ずつに子ども部屋を用意してあげたいな」
「寝室以外に書斎もあったらいいな」
「趣味の音楽や映画を一人でじっくり鑑賞できるオーディオルームがあったらいいな」
などと、マイホームで繰り広げられる家族との新しい生活に思いをめぐらすと、自然と思い描いた家は広くなっていくものです。

私はファイナンシャル・プランナーとして、マイホーム取得の相談に乗る際、「もう少し狭い家にしてはどうか」という提案を、しばしばお客様にします。

住宅にかかるお金は、教育費、老後費とともに、人生の三大支出といわれています。
家が広ければ広いほど、家賃、家の購入費や建築費は高くなります。つまり住宅費が膨らみます。
私たちは、限られた収入のなかでこの3つの支出をまかなわなければなりません。住宅費が予算オーバーとなれば、他の支出を切迫してしまいます。これでは理想のマイホームに住んだとしても、人生を安心して楽しく過ごせなくなってしまいます。

そういった「家の広さ」にとらわれず、方丈庵や茶室が持っている「良い狭さ」を取り入れることで、快適な生活をおくることができるのではないかと考えました。

方丈庵のように、コンパクトに住むこと

限られた広さの家は、当然収納スペースも限られます。そのため、必要なもの不要なものの取捨選択が必須になります。広い家ではものを捨てる必要性がないため、ついつい不要なもので溢れてしまいがちです。物が少なく整理整頓されたスッキリとした家のほうが、暮らしやすいのではないでしょうか?広い一軒家に一人住まいだった親が亡くなって、遺族が遺品整理をすると、あまりにも物が多く大変だったという話はよく聞きます。


茶室のように、狭いがゆえに家族の団らんが生まれる

茶室のように狭い空間だからこそ、家族同士の距離が縮まります。家族それぞれに個室があると、食事が終われば各自の部屋へとなってしまうかもしれません。個室がなく、部屋数も少なければ、家族は食事後もそこに残ります。家事をしている傍らで勉強をしたり、くつろいだり、とならざるを得ません。狭い家だからこそ家族の団らんが生まれるのです。

私は昨年マイホームを建て、前に住んでいたところと比べると、かなり広くなりました。「広々していいね」と訪れた人は言うのですが、広いが故に快適と言えないことが多々あることを実感しています。

例えば、広くなったことで掃除をする範囲が増えました。マイホームなのだからキレイに保ちたいと思いながら、働く主婦としては掃除に割ける時間も限りがあります。
また、部屋数が多くなったことで、照明やエアコンの数が増え、光熱費が高くなりました。これは結構痛いです…。

もし、次にマイホームを探す機会があったら、私は家の広さよりも「利便性」を優先したいと思っています。仕事場から遠くて広い家よりも、近くて狭い家が良いです。余分な広さは、私の生活には持て余してしまい、ストレスを感じてしまうとも感じています。

とはいえ、マイホームに求めるものは人それぞれで正解は一つではありません。私とは反対で、仕事場から遠くても広い家が良いと考えるのも自由です。
マイホーム探しをするとき、その選択肢は広さや家賃、価格だけではありません。周りの環境や家族との付き合い、自分の仕事などとの兼ね合いで、様々な選択肢があるのだということを念頭におき、本当の意味での快適な住まいを探しましょう。

<狭さ>の美学はその究極において、<狭さ>という「かたち」をも否定するのではないか。(中略)<狭さ>の美学とは、具体的に空間の創出や倫理ではなく、「私」が「私たち」であるための生き方であり、戦略なのであろう。

と本書は結ばれています。
現実的な広さ(平米数)で、マイホームを狭い広いと判断している私はドキッとしました。

<狭さ>の美学とは、なかなか深いものでした。

 
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