島﨑弁護士の「底地の気になるソコんとこ」

不動産の中でもトラブルが多いのが底地問題です。

借地・底地に関するトラブルや、共有不動産に関するトラブルを多く取り扱う、半蔵門総合法律事務所の島﨑政虎弁護士に、トラブルの事例や解決方法を紹介していただきます。

今回は、借地・底地トラブルの中から、地主さんの相談事例の紹介です。(リビンマガジンBiz編集部)


(画像=写真AC)

<相談例>

相談者である地主さんは、所有する土地の一部を人に貸していました。借地人はその土地にビルを建てて不動産経営をしていました。ある日、借地人がビルと借地権を第三者に売りたいと申し出てきました。それであれば、兼ねてよりその土地を更地にしてマンション経営を考えていた地主さんは、借地人から借地権を買い戻す方法はないかと思案していました。

地主「土地を貸している借地人から、第三者に建物と借地権を売却したいとの申し入れがありました。この機会に、借地権を買い取りたいと思っています。何か強制的に買い取れる制度はありませんか」

弁護士「借地借家法上、『介入権』という一定の条件で強制的に買い取ることができる制度はありますが…」

実は、こういった場合、介入権を使うことを地主さんにお勧めする機会は非常に少ないです。その理由について、詳しく解説します。

介入権とはこんな権利です

借地権が第三者に売却されそうな場合に、地主が優先的に買い受けることができる制度です。

どんな事案で使える制度?

借地人が、借地権を売る(譲渡する)ためには、地主の許可が必要です。

その際、地主側は「第三者が取得するのを承諾するくらいならば自分自身が借地権を買い取りたい」と考えるケースがあります。このような場合、地主と借地人との間で、まず交渉が行われます。

この交渉段階で、スムーズに話が進めば地主側が借地権を買い取る(買い戻す)ことになります。しかし、金額の部分で折り合いがつかない場合が数多くあります。

借地人の立場からすると、少しでも高く借地権を売りたいと思うでしょう。つまり「地主よりも第三者に売却した方が高く売れる」と考えるはずです。

こうした場合、借地人は裁判所の許可を得て、第三者に借地権を売却することができます。(借地借家法19条1項)

介入権が使えるのはこのタイミングです。こういった借地人の譲渡許可申し立てに対して、「第三者に売るくらいなら優先的に自分に売ってくれ」と裁判所を通して地主が主張できるという制度なのです。(借地借家法19条3項)

地主が介入権を行使した場合、裁判所が借地権の金額を決めて、地主に売るように命令することができます。この時に算定される借地権の価格は、土地の実勢価格の5割~7割の金額となることが多いです。


介入権価格と下取価格の差

この介入権ですが、あまり使い勝手のいいものではありません。

最終的に、地主は損をする可能性があり、借地人からしても売却が困難になる場合があります。

地主と借地人との借地権譲渡の交渉が折り合わず、借地人が裁判所で第三者への売却の許可をもらうタイミングで、お互いの関係は良好であるとは考えにくいです。地主と借地人に借地権の譲渡に関してこういった軋轢が生じている場合、例え地主が介入権を行使せず、借地人が第三者に売ろうとしても、買い手となる第三者は非常に限られてきます。また、譲渡価格はかなり安くなってしまう可能性があります。最初は高く売るために第三者に売ろうと考えたのに、価格は低くなってしまいます。なぜでしょうか。

例えば、借地権を購入したのが不動産業者だった場合。建物を建てるなど、土地活用をして付加価値を付けてからの借地権転売を目的としている場合がほとんどです。不動産会社が借地権を転売する際、地主の融資承諾書が必要になることがあります。これは、転売先の人が、建物と借地権を購入するためにローンを利用するケースなどが当てはまります。元の借地人と地主との関係が悪い場合、地主は素直に融資承諾書を提出するでしょうか?

融資承諾については、裁判所の強制的な許可制度が設けられていないため、地主が融資承諾を拒否すると、転売先探しが非常に難航します。借地権を購入する不動産業者は、転売して利益を出すことを見込んでいる場合がほとんどです。ですので、転売が難しい借地権を買う不動産業者はなかなかいません。地主との関係性は、借地権の商品価値を決定する大きな要素なのです。

それでも無理やり売却しようとすると、どうしても値段を下げるほかありません。つまり、借地人は当初考えていた金額よりもかなり安い値段で売却しなければならなくなります。

また、このタイミングで地主が介入権を行使した場合、第三者に売る場合の金額よりも大幅に高い金額で買い取ることになってしまいます。裁判所が金額を決めてしまうためです。

そのため、地主さんからの借地の買い戻しの相談を受けた際には、介入権の行使を推奨する事案はほとんどありません。交渉によって、いかに最小限のコストで土地を返してもらうかを試行錯誤していくことになります。

介入権の詳細については、以下のウェブサイトに詳しくまとめてあります。
併せてご覧いただければ幸いです。

【借地権譲渡許可申立(非訟事件)における譲受申出(介入権)】
https://www.mc-law.jp/fudousan/22642/

【借地権の下取の代金相場と契約の形態(自由解除条項・介入権行使時の差額分配率)】
https://www.mc-law.jp/fudousan/18307/

 
  • line
  • facebook
  • twitter
  • line
  • facebook
  • twitter

本サイトに掲載されているコンテンツ (記事・広告・デザイン等)に関する著作権は当社に帰属しており、他のホームページ・ブログ等に無断で転載・転用することを禁止します。引用する場合は、リンクを貼る等して当サイトからの引用であることを明らかにしてください。なお、当サイトへのリンクを貼ることは自由です。ご連絡の必要もありません。

このコラムニストのコラム

このコラムニストのコラム一覧へ