島﨑弁護士の「底地の気になるソコんとこ」

不動産の中でも、底地にまつわるトラブルは非常に多いです。

不動産に関する問題を多く取り扱う、半蔵門総合法律事務所の島﨑政虎弁護士に、実際に起きた事例や解決方法を紹介していただきます。

前回に続き、地代の変更に関する相談事例を紹介します。(リビンマガジンBiz編集部)

前回記事:「弁護士が助言する地代増額 その1

<相談例>
地主「賃料増減額請求の要件に関しては理解できました。やはり貸している土地は、相場より安い賃料になっています。相場にあった賃料に増額することはできるのでしょうか」

弁護士「『相当な賃料』の計算上、それは難しいかもしれません」


(画像=写真AC)

■「相当な賃料」とは?


賃料増減額請求がなされた場合、まず適正な賃料を算定します。

裁判では、賃料増減額について訴訟を提起し、裁判所が中立な不動産鑑定士に依頼して鑑定(評価)し、判決を下すことになります。

裁判所は、制度上鑑定結果に拘束されてはいません。しかし、事実上鑑定評価に近似した結論が出ることが多いです。

相談例では、賃料の増額を要求していますが、減額請求の場合でも同様の方法がとられます。

■「相当な賃料」の算定方法


「相当な賃料」の算定は、不動産鑑定評価基準に沿って4つの手法を用いられることが多いです。

どの手法をどの比率で用いるかは、当該事案の性質や、鑑定士の見解によって変動します。以下、概略を説明します。

1.差額配分法
対象不動産の経済価値に即応した適正な実質賃料又は支払賃料と、実際に取引されている実質賃料又は実際支払賃料に発生している差額を求めるものです。

契約の内容や、契約締結の経緯等も総合的に勘案されます。当該差額のうち賃貸人等に帰属する部分を適切に判定して得た額を実際実質賃料又は実際支払賃料に加減して試算賃料を求める手法です。

簡単に説明すると、「新規に貸し出す場合の適正な賃料」と「現在の賃料」に差額が発生した場合、その差額を含めて当事者が納得する賃料を求めるというものです。生じた差額の2分の1や差額の3分の1などを賃料に上乗せするといったケースです。

新規に貸し出す場合の適正な賃料は、取引事例の比較や、不動産の時価に期待利回りを乗じた金額を元に算定します。

2.利回り法
基礎価格に継続賃料利回りを乗じて得た額に必要諸経費等を加算して試算賃料を求める手法です。
この「継続賃料利回り」の部分で、新規で貸し出す場合よりも低額な割合を用いることが多いです

3.スライド法
スライド法は、直近合意時点における純賃料に変動率を乗じて得た額に価格時点における必要諸経費等を加算して試算賃料を求める手法です。つまり、直近の合意時点から物価の変動率に基づいて賃料をスライドさせる方法です。この方法を用いた場合、従前の賃料の影響を特に強く受けることになります。

4.賃貸事例比較法
対象不動産と類似の借地契約の事例について、賃料の情報を収集し、これを参考にして地代を算定する方法です。
この賃貸事例についても、地代の増額である場合「同じぐらい長く続いている借地」を「類似」事例として用いるなど、継続賃料固有の価格形成要因を考慮することとなります。(※不動産鑑定評価基準p35(第7章第2節Ⅲ4))

■4手法のまとめ


この4手法は、いずれも「従前の賃料」が算定において強く影響する、という点で共通しています。

「新しく貸し出した場合」と同じレベルの賃料までいきなり上げられない算定方法なのです

■公租公課倍率:目安では有るが……


固定資産税・都市計画税を元に地代を算定する方式を交渉上使っている地主さんや、管理会社は非常に多いです。

しかし、固定資産税・都市計画税に一定倍率を乗じる方式(公租公課倍率法)は、基本的には不動産鑑定評価基準上の算定方法とされていません。
裁判例上も、公租公課倍率法の利用が当該地域の借地の慣行となっていた特殊な事案(東京高裁昭和59年6月20日;『判例タイムズ535号』p209)など、一部の事案でしか採用されていない手法です。
固定資産税・都市計画税は、地代の増減額の交渉における目安にはなりますが、裁判実務上、税額に連動して地代が決まる、というわけではないことに注意しなければいけません。

■まとめ


賃料が不相当になった場合、賃料の増額請求をすることができます。

ただし、「不相当」かどうか判断するには「相当な賃料」を算出する必要があります。
また、「相当な賃料」は、算定上直近の賃料の金額は大きく影響します。
つまり、新規で貸し出す場合の賃料の金額まで値上げすることが認められる可能性は少ないです。

賃料増減額請求における「相当な賃料」の算定方法ついての基本的な点については、以下のウェブサイトに詳しくまとめてあります。併せてご覧いただければ幸いです。
次回は、賃料増減額請求がどの程度経ったらできるのか、「相当な期間」について解説します。

関連記事:
弁護士が助言する地代増額 その1
弁護士が助言する地代増額 その3

【改定賃料算定手法の種類全体(主要4手法+簡易的手法)】
https://www.mc-law.jp/fudousan/18414/
【公租公課倍率法の基本(裁判例・倍率の実情データ)】
https://www.mc-law.jp/fudousan/2455/

 
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