2年生の建築計画Ⅰを担当している中城です。不動産学部に勤めて20年ですから、とりあえずベテラン教員です。といいますか、相当歳の教員です。2016年度後学期の授業の一コマを紹介します。工学部建築学科の建築計画とは視点を変え、不動産実務で役立つ内容を教授しています。

はじめに

建築可能な建築物の延べ面積は容積率で規定されます。容積率は延べ面積の敷地面積に対する割合で、300%、400%などと表示されます。分譲マンションは区分所有者が独占的に使う専有部分と入居者全員で使う共用部分で構成されます。開発事業者は建築可能な延べ面積の中で、なるだけ広く専有面積を確保して事業収益を確保しようとします。言い換えれば共用部分を狭くしようとします。

これが基本的な構図ですが、共同住宅には容積率に入らない共用部分のつくり方があり、専有面積を狭くすることなく、共用部分を拡充してマンションの魅力を高めることができます。容積率の計算方法が少しずつ見直されていることが背景にあります(註1)。

床面積と延べ面積

床面積は、建築物の各階又はその一部で壁その他の区画の中心線で囲まれた部分の水平投影面積をいい、延べ面積は、各階の床面積の合計をいいます(建築基準法施行令第2条)。共同住宅で多くみられる外部廊下や外部階段は壁で囲まれておらず、床面積に入りません(図1、図2の「⑪」の部分:註2) 。

図1 容積率計算から見た共同住宅における床面積の扱い

図2 延べ面積と容積率計算上の延べ面積の関係

容積率を算定する場合の延べ面積

次の部分は容積率を計算する際の延べ面積に含みません。建築物の用途を問わず適用され、②~⑤は2012年9月、⑥は2014年7月の改正で追加されました(註3)。

自動車車庫等…駐車場、駐輪場の部分は延べ面積の1/5まで不算入

備蓄倉庫部分…防災のために設ける備蓄倉庫は延べ面積の1/50まで不算入

蓄電池設置部分…蓄電池を設ける部分は延べ面積の1/50まで不算入

自家発電設備設置部分…自家発電設備を設ける部分は延べ面積の1/100まで不算入

貯水槽設置部分…貯水槽を設ける部分は延べ面積の1/100まで不算入

エレベーターの昇降路部分…各階とも不算入

住宅の容積率の扱い

上記のほか、住宅用の建築物は以下の特例があります。

住宅の地下室部分…地上部分を含む全体の1/3まで不算入(1994年6月施行)

共同住宅の共用廊下等の容積率不算入(1997年9月施行)

共同住宅の図面で確認

表と図は上記をまとめたものです(註4)。容積率の計算方法の変更点のうち、日常の利用に関係が深くマンションのグレード感に影響が大きいものは⑧です。収益を生まない共用部分はなるだけ狭くすることが通常でしたが、容積率の対象外となったことを受けて;

1) 広いエントランスホールをつくる。

2) 悪天候でも快適に使える内部階段にする。

3) 防災関連室を設ける。

など、共用部分を拡充してマンションのグレードを上げる傾向があります。さらに、廊下や階段が容積率に入らないことが、超高層マンションの増加につながっています(註5)。

引用文献と脚註

文1)中城康彦「不動産価格をマンション管理に反映する方法」日本不動産学会誌第115号,

   日本不動産学会, 2016年8月

文2)中城康彦「容積率の計算に算入しない部分について」不動産フォーラム21,

   公益社団法人不動産流通近代化センター, 2016年6月

文3)中城康彦「超高層マンション普及の背景と建築タイプ」Realpartner,

   公益社団法人全国宅地建物取引業協会連合会, 2015年7月

註1)基本的には緩和される方向で見直されています。

   なお、本稿は分譲マンションを念頭に述べますが、賃貸マンションについても同様です。

註2)幅員が広い、隣地境界線に近い、外部に有効に開放されていないなどの場合は、

   床面積に含まれます。

註3)本文中の①等の番号は、表、図の①等の部分と対応して表示しています。

註4)このケースでは以上のうち、⑦は含まれていません。

註5)超高層マンションは内部廊下や内部階段などが広く、容積率に算入されていた時代は

   開発事業者が手がける魅力に乏しかった。

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