はじめまして。3年生の「家族と財産の法」を担当している大杉です。

勤続15年目ですからそろそろ中堅教員でしょうか。一応、年齢は伏せておきましょう(笑)。

「家族と財産の法」とは何を教える講義なのでしょうか?

家族の間で起きたトラブルを法律で解決するためのノウハウを伝授する、というところでしょうか?

いえいえ、講義の内容は単なるノウハウの伝授でもないようです。

ここで、ある日の講義を御紹介することに致しましょう。

講義タイトルは「遺された配偶者の住まいについて」です。

配偶者に先立たれたら・・・

さて、みなさんは将来、配偶者が亡くなった後の住まいを考えたことがありますか?

そのまま2人で住んでいた家に住み続ける、子どもたちと一緒に暮らす、それとも、高齢者向けの住居に移り住みますか?

日本の高齢者人口は増加しています。下の表を見てみましょう。

出典:内閣府ホームページ

出典:平成23年度版高齢社会白書

自宅に住み続けたい高齢者

高齢者には高齢者向け施設が建設され、高齢者向けのサービスが提供されています。

「終の棲家」として高齢者施設を選択することも増えてきました。

一方、高齢者施設には入居せず、最後まで自宅で過ごしたいと思う高齢者もいます。

でも、遺された配偶者とその子どもたちで自宅を相続した場合、遺された配偶者の意思だけで住み慣れた家に住み続けることが難しい場合もあるようです。

それはどのような場合なのでしょう。

「住み慣れた家にずっと住みたい」と伝えられるか

たとえば、夫婦と子ども2人の4人家族で、夫が亡くなった場合を想像してみましょう。

夫が遺言書を作成していない場合、夫の財産は法律に従って妻と子どもが相続します。

子どもたちが自宅をマンションに建て替え、賃貸経営をしたいと言い出した場合はどうしましょうか?

 

そんなとき、「住み慣れた家にずっと住みたい」と子どもたちに意思を伝えることはできますか?

伝えることができないとすると、「住み慣れた家」は売却されてしまうことになるかもしれません。


相続に関する法律を改正する中間試案

このような場合でも妻が引き続き自宅に住み続けることができるように、昨年、相続に関する法律を改正する中間試案が出されました。

夫婦の一方が亡くなり1人になってしまったときの住まい方についても新しいルールが提案されたのです。

それは、短期居住権と長期居住権です。

中間試案の文章を見てみましょう。

少し難しいかもしれませんが…。

① 短期居住権の内容

配偶者は、相続開始の時に被相続人所有の建物に無償で居住していた場合には、遺産分割(協議、調停又は審判)により当該建物の帰属が確定するまでの間、引き続きその建物を無償で使用することができるものとする。

→配偶者は、遺産分割が終了するまで自宅に住み続けることができます。

② 長期居住権の内容

相続開始の時に被相続人所有の建物に居住していた配偶者は、遺産分割協議の成立、遺言、死因贈与契約等がある場合には長期居住権を取得するものとし、その財産的価値に相当する金額を相続したものと扱うものとする。

→遺言書や相続人の合意があれば一生自宅に住み続けることができます。ただし、自宅の評価額に相当する金銭を相続したことになってしまいますから、他の財産を相続することができない場合もあります。

住んでいた家に住めなくなる!?

「ずっと住んでいたのだから、住み続けるのは当たり前」と思う方もいらっしゃるかと思います。

実は、そうではありません。亡くなった方の財産は、死亡と同時に相続人の「共有」になります。

亡くなった方が持っていた財産を相続人が「共有」し、財産の上に法定相続分に応じた「持分」を持つのです。

相続人の「共有」ですから、みんなが話し合って誰が何を相続するか決めるのです。

配偶者に自宅を相続させるのは当然のことではありません。

配偶者に自宅を相続させたいのであれば、遺言書を書いてもらうしかありませんが、「遺言書を書いてください」とお願いしづらい場合もあるでしょう。

それほど、「相続する」ということは難しいことなのです。

納得するまで「話し合い」をする

家族の形はそれぞれ違います。

事情も各家庭によって違うはず。

相続人が納得するまで「話し合い」をすることがとても大切なのです。

相続の話をしたら、家族の関係が壊れてしまった、一言も話していない、という悲しい話を耳にすることがあります。

相続は家族を「仲良くさせる」こともできるし「喧嘩別れ」させることもできるのです。

どうぞ、相続で家族が崩壊することがありませんよう。

円満な相続が行われることを願っています。

それではまた、お目にかかりましょう。

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最後までご覧下さり、誠にありがとうございました。

もしよろしければ、不動産学部のホームページもぜひご覧下さい!

 
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