民泊事業からの撤退・・・・許可を受けたまま住宅への転用はできるのか?

カピバラ好き行政書士 石井くるみさんが民泊を始めとした宿泊関連ビジネスの最新情報を紹介します。新型肺炎(新コロナウィルス)の影響はついにオリンピック、パラリンピックの延期にまでなりました。民泊・宿泊事業の壊滅的な影響が続いています。撤退も含めて、あらゆる選択しを考えるときでしょう。(リビンマガジンBiz編集部)

画像=PIXABAY

全世界的に収束の目途が立たない新型コロナウイルスの感染の問題。ついに今夏に予定されていた東京五輪の延期が発表されるという、数カ月前は予想すらできない出来事が現実に起きています。

ホテル・民泊などの宿泊施設は大打撃を受け、事業から撤退する事業者も現れています。そんな中、当事務所に急増している相談は、「旅館業に基づく許可を受けた施設を、賃貸で運用できないか?」というものです。

今後もしばらく需宿泊要の回復は見込めないので、ニーズが回復するまでの1~2年間は、民泊経営を行わず、住宅として使いたい(賃貸物件として運用する)という考えです。

旅館業の営業を継続したまま、住宅として使用させる(ここでは、賃貸人と賃借人の間で普通賃貸借契約を締結することを想定)ことはできるのでしょうか?本稿では、旅館業法に基づく許可を受けた施設を賃貸で運用する場合の手続と運用方法(契約形態)を考察します。

旅館業とは何か?-旅館業と賃貸業の違い-

まず、そもそも「旅館業」とは一体どういうものでしょうか?旅館業法では、「旅館業」とは、旅館・ホテル営業、簡易宿所営業及び下宿営業」と定義づけられており、これらの共通点は「宿泊料を受けて人を宿泊させる営業」であるということです。「宿泊」とは、「寝具を使用して施設を利用すること」とされています。厚生労働省は、生活の本拠を置くような場合(例:アパートや間借り部屋など)の貸室業・貸家業であって旅館業には含まれないと見解を示しています。そして、旅館業を経営するもの(営業者)は、都道府県知事等から旅館業の営業許可を受ける必要があります。

「宿泊させる」旅館業の営業者には、衛生管理の責任がある。

旅館業の営業許可は、営業者が行政から受けるものであるため、部屋の利用者との間において、宿泊契約と賃貸借契約のどちらを締結するかは、直接的には旅館業の営業許可とは関係がないようにも見えます。

しかし、旅館業の営業許可を受けるためは、法令や地域の条例が定める換気、採光、照明、防湿、清潔等の構造・衛生基準に従っていなければならず、旅館業の営業者は、衛生的な宿泊施設を宿泊者に提供しなければならないとされています。これは、「公衆衛生の向上」を目的とする旅館業法の趣旨からも明らかです。

借地借家法が適用される賃貸借契約と旅館業の葛藤

他方、賃貸借契約とは、{当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し,相手方がこれに対してその賃料を支払うことを約することによって効力を生ずる契約}のことをいいます(民法第603条)。さらに、建物の賃貸借については、民法の特別法である借地借家法が適用されます。借地借家法は、賃借人を強力に保護するための法律であり、賃貸人に正当事由がなければ、建物賃貸借契約は法定更新され、賃貸借は終了しない旨などを定めています。(賃借人に不利な特約を定めてた場合は無効となる)。

建物の賃貸借契約を締結して物件の引渡しを受けた賃借人は、当該物件について「独立の排他的占有」を確保します。つまり賃借人には、契約の範囲内で自由に賃貸物件を利用し、また、他人が勝手に賃貸物件に入ってくることを防止・排除する権利が認められます。たとえ特約を結んだ場合であっても、貸主が無断で立ち入ることは違法とされる可能性が高く、民事・刑事の法的責任を追及される可能性があります。

しかし、前述の通り、旅館業の営業者は、旅館業の施設を衛生基準に従って維持・管理する責務があります。また、許可を与えている都道府県知事は、旅館業施設の衛生管理について、報告徴収、立入検査を権限が与えられています。

あるホテルで、もし「客室内には立ち入るな」という宿泊者が、客室内で食べ物を腐らせたまま放置したり、水をまき散らしたまま掃除をしなかったりなど、客室を不衛生に使用した場合、そのホテル営業者はどうするでしょうか?ホテルの営業者は、たとえ宿泊者が拒んだとしても、必要があると認められる場合は客室内に立ち入り、ルームクリーニングを行うことでしょう。

しかし、同じことを賃貸人が賃貸物件に対して行った場合は、たとえ建物の所有者であったとしても、賃借人に対して不法行為(不法侵入)を行ったとされる可能性があります。

旅館業の許可を受けている施設で賃貸借契約を締結し、その結果、施設の衛生維持管理の権限を失ってしまった場合は、宿泊施設の衛生管理維持責任を果たすことができません。このような状態にあっては、実質的に旅館業を営んでいるとは言えず、「旅館業の営業を停止(廃止)」されていると考えられます。

旅館業の営業を廃止(停止)したときは、停止届(廃止届)の提出が必要

旅館業の営業者が、旅館業の営業の全部又は一部を停止又は廃止したときは、10日以内に営業施設所在地を管轄する都道府県知事に、旅館業の営業の「停止届」又は「廃止届」を提出しなければなりません(旅館業法施行規則4条)。

一般の居住用賃貸、すなわち、アパートや戸建住宅を、居住を目的として人に貸付ける行為は「旅館業」には該当しないと解されています。そのため、旅館業法に基づく許可を受けた施設を一時的に賃貸で運用する場合は「停止届」を、ずっと賃貸で運用する場合は「廃止届」を提出することが必要となります。

次回は、旅館業からの賃貸への転用を行うにあたり、想定される3つの方法について解説します。

 
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