外国人旅行者99.9%減少の衝撃 変革の時を迎える宿泊業界

カピバラ好き行政書士 石井くるみさんが民泊を始めとした宿泊関連ビジネスの最新情報を紹介します。新型肺炎(新コロナウィルス)は宿泊ビジネスを破壊しています。分かっていたことではありますが、訪日外国人旅行者99.9%という政府統計にはさすがに驚きの声があがりました。文字通り需要が消滅した旅行業界の先行きはいかに?(リビンマガジンBiz編集部)

画像=PIXABAY

感染拡大が懸念されている新型コロナウイルスの新規感染者数は日本全国減少に向かい、首都圏と北海道を除く全国の緊急事態宣言も解除されることとなり、少しずつ社会・経済活動が動き始めました。

4月の訪日外国人旅行者数は99.9%減少

しかし、経済的に大きな打撃を受けた、旅行などの観光産業の先行きは未だ不透明感が続いています。日本政府観光局(JNTO)によると、2020年4月の訪日外国人旅行者数(推計値)は、前年の292万人から99.9%減となる2900人に激減しました。新型コロナウイルスのパンデミックで、海外渡航制限や外出禁止の措置をとる国が拡大したほか、日本でも検疫強化や査証無効化、入国拒否等の措置を行なったことが要因で、これは、単月の数字としては、JNTOが統計を開始した1964年以降では最少です。

また、2020年1-3月期は、日本人国内旅行消費額(速報)も3兆3,473億円(前年同期比20.5%減)と落ち込んでいます。特に1~2月の減少はさほどではありませんが、全国的に外出自粛ムードが広がってきた3月の日本人国内延べ旅行者数は、前年同月比で-47.1%と3月の大幅な減少となっています。緊急事態宣言が発出された4月以降の統計は未だ発表されていませんが、おそらく3月以上の減少と推測されます。

民泊届出数は初めての減少へ

宿泊業界の動きも様々で、事業撤退や再編など、目まぐるしく状況が変化しています。

観光庁発表によると、5月11日時点の住宅宿泊事業(民泊)の届出数は2万1176件となり、2018年の住宅宿泊事業法(民泊新法)の施行以降増加を続けてきた民泊戸数が初めて減少に転じました。新型コロナの感染拡大を受けた渡航制限による訪日観光客の激減と営業自粛で、厳しい経営環境は今後もしばらく続きそうです。

相次ぐホテルの廃業

昭和27年創業の札幌第一ホテルは、5月20日、6月20日を以って閉館することを公表しました。札幌の主要ホテルの廃業は一連の新型コロナウイルス感染拡大以降では初めてとなります。筆者も札幌出張の際に同ホテルに宿泊したことがありますが、実際に利用したホテルがなくなるのは何とも寂しい気持ちです。

他にも静岡沼津の「山三ビュウホテル」が4月30日付で破産開始決定、長野「ホテルゴールデンセンチュリー」が5月4日付で事業停止、京都府「京都セントラルイン」が4月29日付で事業停止、山口県「秋芳観光ホテル秋芳館」が4月30日までに事業停止、福岡県「築上館」が5月7日付で自己破産を申請、大分県「リバーサイドホテル山水館」が5月15日付けで自己破産を申請、するなど、ホテルの倒産が相次いて出います。

数億円の負債は昨日今日で積み上げられたものではないと考えられますが、新型コロナウイルスの影響で事業に大きな打撃が加わったのではないでしょうか。無理な経営を続けて負債をさらに膨らませるよりも、廃業という選択肢を取ることも重要な経営判断と言えます。

営業再開するも先行き不透明な宿泊業界

株式会社近鉄・都ホテルズ(大阪市)が運営する都ホテルズ&リゾーツでは、一部自主的に休業していた東京、京都、大阪、兵庫、奈良、三重、岐阜、福岡などの施設の営業を5月28日より順次再開することを公表しました。しばらくは宿泊需要も低い水準が予想されますが、マスク着用、定期的なアルコール消毒、ソーシャルディスタンスの確保など、感染防止対策への注力が重要と言えるでしょう。

感染者や医療従事者への受け入れに

厚生労働省は新型コロナウイルスの感染者を受け入れる軽症者向け宿泊施設について、

都道府県別の受け入れ可能な部屋数を公表しました(5月14日時点)。患者の受け入れが可能な部屋数は44都道府県の計1万8254室で、東京都は2865室となっています。(実際に使用されているのは117室)

例えば東京都は、「東横イン東京駅新大橋前」(中央区)を一棟で借り上げ、発熱がなく、呼吸器の症状が改善傾向にある軽症者を対象として受け入れています。同ホテルでは24時間体制で看護師2人が常駐、日中は医師が待機し、患者の健康管理を行っています。

また、大分県は別府市のホテル「杜の湯リゾート」を借り上げ、同じく軽症の感染者等を受けれていますが、このホテルでは5月21日に、ロボットを使って各部屋に弁当を届ける実証実験が行われました。感染者とホテル職員の接触を減らし、施設内感染のリスクを下げることが目的です。

宿泊施設では2018年より無人のチェックインが可能となる規制緩和が行われていますが、今後は非接触型の接客サービスなどの技術開発も進みそうです。

大きな変化の時を乗り越え、新しい社会・生活様式と共に、新しい宿泊のカタチが形成されていくことを期待しましょう。

 
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