8月より東京都港区の旅館業申請手続きで新たな要綱が施行され、近隣への事前周知が必須に!

カピバラ好き行政書士 石井くるみさんが民泊を始めとした宿泊関連ビジネスの最新情報を紹介します。感染予防と今後の観光業について紹介します。(リビンマガジンBiz編集部)

画像=PIXABAY

令和2年8月1日から、「港区旅館業に係る計画及び適正な管理運営に関する要綱」が施行されました。それに伴い、旅館業の許可申請に新たな手続きが追加されています。

当事務所では港区での旅館業申請を複数手掛けてきました。その際、計画施設が住宅地の中にあるなどの場合は、必要性を感じて以前から自主的に周辺住民への事業計画の説明や事前協議を行っていました。これが、ついに要綱によりルール化されたという印象です。

申請する事業者側からみれば規制が厳しくなったとも感じられますが、施設のオープン開始前から施設の周辺住民と良好な関係を築くことは、その後のスムーズな事業展開を助けるものですので、積極的に取り組むことをおすすめします。

さて、新要綱において、港区の旅館業申請手続きは、どのように変わるのでしょうか?

具体的には、次の3点が令和2年8月1日から適用されます。

1.近隣住民に対する事前周知

計画施設の近隣住民に対し、許可申請の20日前までに旅館業に係る計画内容を書面で周知します。ここでいう「近隣住民」とは、旅館業を営もうとする施設の敷地境界線からおおむね10メートルの範囲内の建築物に居住する者をさします(旅館業を営もうとする施設が建物の一部分である場合は、当該建築物に居住する者も含む)。

周知あたっては、最低限、下記の内容を周知しましょう。

① 施設の名称、所在地
② 申請者氏名
③ 施設が旅館業として使用される旨
④ 申請予定日
⑤ 旅館業の施設及び建築物の規模・構造
⑥ 予定客室数、定員数
⑦ 営業開始予定日
⑧ 事前周知に関する問い合わせ先

周知の結果、近隣からの質問や意見が寄せられたものを記録した「事前周知結果報告書」は、申請時の提出書類の一部として提出します。

 2.計画標識の設置

計画施設の施設又は敷地の見やすい場所に、許可申請の20日前から許可を受けるまでの間、計画内容を記した標識を設置します。また、標識設置後、直ちに、保健所に「旅館業に係る計画標識設置届」を提出する必要があります。

<標識設置後の提出書類>

①旅館業に係る計画標識設置届
②標識を設置した場所の周囲おおむね300メートルの区域内の見取図
③標識設置位置図
④標識設置状況を撮影した写真

3.説明会等の開催

施設のある地域の町会・自治会、周辺住民又は近隣住民から事業計画に関して、説明会の開催や個別の説明をするよう求めがあったときは、求めに応じなければなりません。また、新たな要綱の中では、申請者、営業者、営業者から委託を受けた事業者等(以下、「営業者等」)は、旅館業の運営による生活環境への影響に関し、住民組織等から協議を求められたときは、これに応じるよう努めなければならない、と規定されています。運営に関する協議を行った場合は、その内容について相互に理解し、「こんなはずではなかった・・・・・!」という後日のトラブルを防止するため、書面等を取り交わすことがベターです。

協議する内容(営業者等が営業にあたり遵守する自主ルール)は、例えば下記の様なものが考えられます。ぜひ、参考としてください。

①運営を行う本施設の営業において、周辺住民との間で問題が生じた場合には、営業者等は責任を持って速やかに解決するよう努める。
②営業者等は施設の外部から見やすい場所に施設名称、管理者の連絡先を明示し、あらかじめ、緊急時に連絡が付く連絡先を周辺住民等に通知する。
③営業者等は宿泊者予定者に対して、下記の情報を提供する。
・本施設の所在地
・本施設の周辺に存する目標となる地物
・前号の目標となる地物から本施設までの経路
④宿泊者に対し、あらかじめ周辺住民の生活環境悪化の防止のために必要な下記の事項(必要に応じて外国を用いて)を説明する。
・大声、騒音を発さないこと、移動時の騒音発生に注意すること。
・公共の場所において、たばこの吸い殻をみだりに捨てないこと。
・公共の場所(指定喫煙場所を除く。)で喫煙せず、施設内で喫煙する場合は他人にたばこの煙を吸わせることがないよう配慮すること。
・ごみは指定の場所に適切に廃棄すること。
・火災を発生させる可能性がある器具等は適切に使用すること。
⑤万一宿泊者による迷惑行為が発生したときは、営業者はその行為をやめさせるよう宿泊者に対し指導しなければならない。
⑥施設の管理体制について、以下の事項を遵守する。
・災害時の宿泊者の誘導等を適切に行う。また、宿泊者のための飲料水、食料その他災害時において必要となる物資の備蓄に努める。
・万一、火災が発生した場合の適切な対応方法について、宿泊者に周知する。
・ごみは、あらかじめ決められた場所に集積し、事業系廃棄物として責任を持って処分する。
・登下校時間帯における通学路の通行には、特に安全上の配慮を行う。
・本施設及びその周辺部の環境美化に努める。
・従業員が施設に常駐していない場合でも、緊急時には従業員が迅速に駆けつけ、責任を持って対応する。

以上が、東京都港区での旅館業申請にあたり、新たに加わる事前手続きの解説です。協議に定めていない事項が発生した場合は、営業者と周辺住民は協議のうえ、誠意を持って解決に努めましょう。

事前手続き後の申請の流れは今までと変わらず、旅館業営業許可申請書の提出、教育関係機関への意見照会、実地検査(中間検査及び完成検査)、許可となります。

施設は許可を取ることが目的ではなく、長期継続的な運営を行うものですので、近隣と良好な関係を築くことは非常に重要なことと言えますが、様々な価値観、立場や利害が絡むものでもあるので、協議がなかなか整わないことがあります。また、相互のコミュニケーションがうまく取れなかったために誤解が生じてしまい、本来であればそこまで対立するものではないような事例でも、事業者側と周辺住民が対立し、関係性がこじれてしまうケースをいくつも見てきました。宿泊事業はサービス業であることも踏まえ、相手の立場になって物事を考える余裕を大切に事業に取り組んでいきましょう。

 
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