マンションに住んでいるAさんは、エレベーターの点検費用が2ヶ月に1回10万円以上もかかっているというニュースを見て、自分はマンションのエレベーターを一度も利用したことがないことに気が付いた。
それもそのはず、Aさんが購入した部屋は1階だったからだ。そういえば、2.3階の住人でも、階段を使う人を多く見かける。そう思うと、エレベーターを利用したことがない住人も、よく利用する上層階の住人も同じ割合で管理費を支払わなければいけないのは、不公平ではないのだろうか。
行政書士ダンディ法務事務所 大熊厚史代表に聞いた。(リビンマガジンBiz編集部)

(画像=写真ACより)

エレベーターやマンションの共有設備の使用頻度による管理費の値下げ要求問題。非常に多いです。理事会でもよく話に出ます。最近はズバズバ自分の不満をぶつけてくる住民が多いので、これからもこの不満を主張する人は後を絶たないでしょう。「自分は1階に住んでいて全くエレベーターを使用しないのに、何故12階に住んでいて毎日使用している人と管理費が同じなのか?不公平ではなかろうか?」と考える気持ちは分かります。

 実際に管理費の値下げ要求を求めた訴訟を起こしたケースもあります。しかし、結論は平成14年の札幌地裁でも、平成5年の東京地裁でも同じです。訴えは認められませんでした。何故なのでしょうか?

管理費の値下げが認められない理由

 まずマンション特有の法律、区分所有法第19条では「各共有者は、規約に別段の定めがない限りその持分に応じて、共有部分の負担に任じ、共有部分から生じる利益を収取する」と規定しています。解説すると、エレベーターのような共有部分の管理費の負担については、原則、使用頻度は考慮せずに、所有している自分の部屋の床面積の割合に応じて負担するということです。これが絶対の基本原則なのです。

 判例も管理費の負担の割合は、「共有部分の利用の仕方が、各区分所有者の利害に必ずしも一致しないので、共有部分から受ける利益の程度が必ず管理費用の額に反映させる事は不可能である。また、エレベーターは給水設備や配管などと同じように高層住宅には不可欠な設備であり、1階部分及び二階以上の部分とも建物と一体になった設備であるために、その維持や補修については建物全体に影響を及ぼすことになるので、共有部分に対する各区分所有者の利害損失をある程度これを無視することもやむをえない」と考えています。
 分かりやすく言いますと、1階の住民でもテレビアンテナや電線の管理や最上階にある受水槽の修繕・修理などでエレベーターを間接的に使用しているという事です。マンションに住むうえで自分が利用しなくても、実はお世話になっているというのが事実です。

 更に言及すると、エレベーターの無いマンションに価値はあると思いますか?エレベーターという設備そのものが、貴方のマンションの価値を高めているのです。エレベーター様ありがとうと感謝すべきだということです。

 貴方は不平等だと言いますが、「俺は二階の住民だが、エレベーターは一切利用しないで階段を使ってるぜ」「私は車を持っていないから、駐車場は利用してないわ」「宅配BOXあるけど、僕は一切使っていないよ」等々、細かく言えば不平等なのは当たり前です。正確に各住民の共有部分の使用頻度を計る事は至難の業ですし、逆にこれらの個々人の事情を考慮すればするほど複雑化し、益々結果的に不平等な管理費設定になる恐れがあります。

管理費を値下げすることはできないのか?

 それでは、1階の住民は管理費を安くする事は不可能なのでしょうか?答えは「できます」。先ほど書いた区分所有法には何と書かれていましたか?「規約に別段の定めがない限り」と書かれていました。つまり規約に別段の定めがあれば、管理費を安く設定する事も可能です。

 ただし、それにはハードルがあります。規約を変更するには、特別決議で区分所有者及び議決権の各四分の三以上の支持を得なければなりません。

 そのためには、上層住民を説得・納得して頂ける資料を用意しなければなりません。エレベーターを全く使用していないことを具体的に数値化して証明したり、管理費の中でエレベーターの修繕費が突出しているなど不公平さを全面的に強調して主張する必要があります。
 これはとても大変な作業です。そんな完璧な資料を作って、更に四分の三以上の支持を得るなんてハードル高すぎるよ、と思うかもしれません。しかし、これにもカラクリというか抜け穴があります。

 現実問題として、マンションの住民はとにかくこれらの特別決議に無関心な方が多くいらっしゃいます。100人いるのに6人しか出席しないで、委任状で議長に丸投げするなんていうケースが多々あります。
 皆さん日々の生活、仕事や育児で忙しい。自分の利益ならいざ知らず、他人の管理費が安くなるなんて他人事だと考えられます。このような場合、案外すんなりと管理費の値下げが通ってしまうのです。
管理費下がった、良かった、世の中甘いぜ、万々歳となります。

 ですが、やはり世の中そんなに甘くないのです。リタイア組と言われる年金暮らしで時間的に余裕があり、正義感に溢れる年配の方が、「ちょと待った」と牙を向いてくる恐れがあります。

 区分所有法に規約により管理費の格差を設けては構わないが、その差は衡平の範囲内でなければならないとありますので、その1階の住民の管理費は不当に安くないか?そもそもこの決議は、きちんと行われたのか?と怒涛の反撃をし、その後、弁護士に依頼し訴訟を起こされる可能性があります。現実的には理事会や出席したマンション管理士に責任が及びますが、理事会は「だいたいあのマンション管理士のアドバイスに従っただけです」と責任転嫁し、マンション管理士が適切な助言をしなかったのか?と追求される恐れがあります。

 最近マンション関係の訴訟が非常に増えています。みんな住民は何かしらの不満を抱えて生きています。これは当たり前のことです。

 生きるとは不満と日々向き合う事です。不満と上手く折り合いを付けて生活するのが幸せに生きるコツだと思います。

 
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