7月15日、マンションにおける高圧一括受電サービスのトラブルに関する報道があった。
高圧一括受電サービスを契約している東京都内のマンションでは、東京電力との契約よりも割高な料金を支払っていたことが発覚した。その差額は、年間150万円にものぼるという。では、マンションの高圧一括受電サービスは、本当にお得なのだろうか。マンション管理士の資格を持つ行政書士ダンディ法務事務所 大熊厚史代表に、高圧一括受電サービスのメリット・デメリットについて聞いた。(リビンマガジンBiz編集部)


マンションの電力サービスに思いを馳せる 大熊厚史行政書士 (撮影=リビンマガジンBiz編集部

今、「マンションを高圧一括受電にしても思ったよりも電気料金が下がらなかった」もしくは、「逆に高くなってしまった」というケースが多発しているようです。
これはマンションの住民が、高圧一括受電サービスについて詳しく理解していなかったために起こります。まず、高圧一括受電サービスの仕組みを説明します

そもそも高圧一括受電とは?

高圧一括受電とは、マンション等の集合住宅において、集合住宅全体で電力会社と高圧電力契約を行います。各専有部分利用者は高圧電力会社と低圧契約することで、電気の供給を受ける電気契約を指します。高圧電気料金の単価と低圧料金単価の差によって、電気料金を引き下げることができるのです。

高圧一括受電サービスはどれくらい普及しているのでしょうか?新築マンションに占める一括受電サービスの普及率は、年々増加傾向にあります。

こんなデータがあります。普及率は2011年には僅か3.83%でしたが、2016年には31.06%と新築マンションの約3分の1が一括受電方式を採用しています。累計物件数は1458物件と、5年半で25倍以上増加し、導入が急激に加速しています。

これは、東日本大震災以降に電気料金が値上がりし、マンションの光熱費等を削減するために一括受電のニーズが高まり、新築マンションに採用されるようになったことが大きな要因です。

高圧一括受電のメリットとデメリット

■メリット
高圧電力のメリットは、電気料金の安さです。高圧一括受電サービスに切り替えることによって、マンションの住民の電気料金が割安になるケースが少なくありません。東京電力が提供する500KW未満の顧客を対象にした業務用電力の電気料金は、1KHhあたり16.08円~17.22円です。一般の家庭の多くが契約する従量電灯B契約では19.52円~30.02円であることから、差は歴然です。
いかに高圧電力のメリットが大きいかが分かります。

さらに高圧一括受電にすると、スマートメーターにより、30分単位で電気使用量が分かり、インターネットを通じて確認できるようになります。これにより、アナログ式メーターでは不可能であった自分の家庭で日々どれくらい電気が使われているのか詳細に把握ができ、節約意識が高まります。結果として、電気料金は日々の節約の心がけからも安くなります。

■デメリット
しかし、デメリットもあります。高圧一括受電で必ずしも電気料金が下がるわけではないことに注意が必要です。それはなぜなのでしょうか?

そもそもマンションの共用部分は、最初から高圧一括受電です。高圧一括受電を導入してないマンションでも、共用部分は高圧一括受電であり、住人の専有部分が低圧契約になっています。つまり高圧一括受電にしても、共有部分の料金は元々が高圧契約だから電気料金に変化は全く無いのです。

高圧一括受電サービスを提供する事業者の多くは、契約プランをマンションの各戸の電気代を5%~10%程度下げる「専用部削減タイプ」と、マンション建物の共用部分の電気料金を20%~50%下げる「共用部分削減タイプ」に分けています。

マンションの住民が直接電気代が下がったと実感できるのは、当然「専有部分削減タイプ」です。現実的に電力会社の多くは、このタイプを新築マンションに推奨しています。一方で、既築のマンションには契約数獲得のために、損をする「共用部分削減タイプ」を推奨する企業もあるようです。

つまり新築マンションでは不満がなくても、多くの既築マンションでは共有部分の削減タイプのために住民から電気料金について不満や疑問が噴出するのです。

もう一つのデメリットは、高圧一括受電にすると、1~3年以内に1回の受電設備の点検が義務化されているので、その際に停電が必ず起きます。
住宅ワーカーの人や、医療機器を使って生活している人には大問題です。停電による電気製品の故障等も考えられます。

そして、最大のデメリットは事業者との10年程度の長期契約が必要なことです。高圧一括受電契約をしてしまうと、今後10年の間に新たにサービスを提供する新規業者が登場しても、簡単には変更できません。途中解約すると違約金が発生してしまいます。

このようなメリットやデメリットが混在しているため、一般の方には非常に理解しづらい部分が多いのです。

誰に相談すれば良いのか?

電気料金の見直しには、専門家のマンション管理士に相談するようにしましょう。まだまだ知名度の低いマンション管理士ですが、マンション問題のエキスパートであり、非常に頼りになる存在です。上手く活用して電気料金のサービスを的確に切り替えましょう。

電気の自由化により、電気料金の見直し高圧一括受電サービスを検討しているマンションの管理組合は多いですが、実際にはサービス変更まで辿り着くケースは非常に少ないそうです。

私の知り合いのマンション管理士も言っていましたが、理事会で議題にはあがります。結局は「もうしばらく様子を見ましょう」との結論になることが非常に多いそうです。


ひと仕事を終え、少しリラックスした 大熊厚史行政書士 (撮影=リビンマガジンBiz編集部)

マンションで電力サービス切り替えの流れ

それには理由があります。
電気料金のサービスの切り替えには非常に高いハードルが存在しているのです。

まず総会での承認が必要です。区分所有者及び議決権の4分の3以上の賛成を得る「特別決議」が必要です。電気料金のサービスの切り替えは、特別決議事項の共有部分の重大な変更にあたるからです。

これを、過半数の賛成で良い「普通決議」でやろうとする管理組合が多いのですが、事前に電力会社に了解を得る必要があります。

この特別決議をクリアしても、更に厳しい難題が待ち受けています。

それは、決議後に全戸の住居者からの一括受電への切り替え同意書が必要になることです。1戸でも反対者がいると導入は不可能です。反対者に対する賛成者の不満等、マンション内での人間関係に複雑な問題が生じる恐れもあります。

ゴタゴタや不仲は些細な問題から生じます。それが深刻ないじめやトラブルに発展することもあるので、非常に厄介です。

現在、この同意書の必要性には賛否両論が存在し、「同意書がなくても特別決議の承認だけで良いのではなかろうか?」という意見もあります。その場合も事前に電力会社の了解を得る必要があります。

近年、この高圧一括受電サービスに関する契約の強要や、訴訟に発展する等の脅迫行ためが頻発しています。国会にて、この高圧一括受電の諸問題が質問されたこともあります。それくらい複雑な問題なのです。

更に、切り替え工事の際には、定期点検時同様に、午前、午後それぞれ2時間程度の停電になります。電気機器の撤去や配置や各戸に設置されている電力会社のブレーカーやメーターの交換のためです。つまり、停電になることに対しても、住民から事前に承諾を得なければなりません。

このように電気料金を安くする目的で、高圧一括受電サービスに切り替えるためには、多くのハードルを乗り越えなければなりません。だから多くの管理組合は途中で挫折して、結局は「もうしばらく様子見しましょう。」に落ち着いてしまうのです。

マンション住民の大半が理事会の決定に無関心な現実があります。決まったことに何も疑問を持たない住民が多いのです。
こぞって、大手の電力会社が、この高圧一括受電に参入してきているのは、事業として非常に美味しいからです。甘い蜜を吸わせ続けて良いのですか?住民は、もっと自分の目と耳で何が正しいのか判断するべきです。その事の大切さを、この高圧一括受電サービスの諸問題は、我々に教えてくれています。

 
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