こんにちは。弁護士の大西敦です。
 
 先日のコラムでは、2回に分けて、マンションにおいて、水漏れが発生した場合の法律問題について、ご説明しました。
  
   マンションでの漏水事故①(居住する部屋から漏水が発生した場合)
   /column/onishiatsushi/19083/
 マンションでの漏水事故②(所有する部屋から漏水が発生した場合)
 /column/onishiatsushi/19093/
 マンションにおいて、建物の瑕疵そのものを原因とする漏水事故が発生し、階下の住人が損害を被った場合、民法717条の土地工作物責任が問題となります。
 このような場合、被害を受けた階下の住人は、民法717条1項に基づき、発生した損害について損害賠償請求を行っていくことになるわけですが、その原因がマンションのどの箇所の瑕疵にあるのかがわからないことがあります。
 マンションは、区分所有者が所有する専有部分と、区分所有者の共用部分に分かれていることから、被害者の立場からは、漏水の原因が専有部分か、あるいは共有部分かということによって、損害賠償請求を行う相手方が異なるということになります。
 ここで、問題となるのは、被害者にとって、漏水の原因となったのが、共用部分なのか、専有部分なのかがわからない場合です。
 管理がしっかりしているマンションで、管理会社が漏水の発生箇所を調査してくれるような場合には漏水の原因が特定できることがほとんどです。
 しかしながら、マンションに契約する管理会社がいない場合、階上の住人が調査に協力しないような場合もあります。
 
 この点について、区分所有法9条は、「建物の設置又は保存に瑕疵があることにより他人に損害を生じたときは、その瑕疵は、共用部分の設置又は保存にあるものと推定する。」と定めています。つまり、漏水の被害者は、漏水の原因が専有部分か共用部分かを立証する必要はなく、共用部分の瑕疵についての責任を負うべき管理組合、あるいは区分所有者全員が、瑕疵が専有部分にあることを立証する責任があるということになります。
 
 漏水事故の場合、その原因は配水管であることが多く、配水管を原因とする漏水では、その原因となる配水管が共用部分なのか、専有部分なのかということで争いになることがよくあります。
 専有部分か、共用部分かの判断について、最高裁平成12年3月21日判決は、「マンションの専有部分である甲室の床下コンクリートスラブと階下にある乙室の天井板との間の空間に配された排水管の枝管を通じて甲室の汚水が本管に流される構造となっている場合において、甲室から右枝管の点検、修理を行うことは不可能であり、乙室からその天井裏に入ってこれを実施するほか方法はないなど判示の事実関係の下においては、右枝管は、建物の区分所有等に関する法律2条4項にいう『専有部分に属しない建物の付属物』であり、区分所有者全員の共有部分に当たる。」として(要旨)、専有部分からの汚水が流れる排水管の枝管が共有部分に当たるとしました。
 この考え方を前提にした場合には、専有部分のみでしか使用されない配水管であっても、その配置場所等を考慮して、共用部分にされることがあるということになります。
 民法717条の土地工作物責任は、一次的には建物の占有者に損害賠償責任がありますが、その瑕疵が共用部分である場合には、管理組合がその責任を負うことになります。
  管理組合は、共用部分の管理を行う団体だからです(区分所有法3条)。
【区分所有法】
(区分所有者の団体)
第3条  区分所有者は、全員で、建物並びにその敷地及び附属施設の管理を行うための団体を構成し、この法律の定めるところにより、集会を開き、規約を定め、及び管理者を置くことができる。一部の区分所有者のみの共用に供されるべきことが明らかな共用部分(以下「一部共用部分」という。)をそれらの区分所有者が管理するときも、同様とする。
(建物の設置又は保存の瑕疵に関する推定)
第9条  建物の設置又は保存に瑕疵があることにより他人に損害を生じたときは、その瑕疵は、共用部分の設置又は保存にあるものと推定する。

 
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