遠くない将来、不動産テックによって不動産ビジネスは劇的に変化すると言われている。

これまでの商慣習や仕組みごとかわり、無数の新ビジネスが生まれるかもしれない。

不動産テックに関連する企業経営者や行政機関などに取材し、不動産テックによって不動産ビジネスがどう変わっていくのかを考えてみる。

今回は、反響やアポの獲得率をあげるサービス『KASIKA』を提供しているCocolive・山本考伸社長に話を聞いた。(リビンマガジンBiz編集部)

 

New! 2019.10.18 再取材

Cocolive・山本孝伸社長 町の不動産会社でも高度なマーケティング分析ができる

Cocolive・山本考伸社長(撮影=リビンマガジンBiz編集部)

不動産テック企業Cocolive(東京・港区)では、反響やアポの獲得率をあげるサービス『KASIKA』を開発、提供している。不動産会社の自社ホームページに追加するだけで、既存客への追客が簡単になる。

自社ホームページを見ている顧客を追跡、行動を分析して最適な物件情報を紹介したり、メール追客したりが可能になる。

社長の山本考伸氏は楽天トラベルの社長を務めたこともある人物だ。ネット上の顧客追跡や分析の専門家は、不動産住宅営業にどんなテクノロジーを持ち込むのだろうか。

―不動産会社向けの営業支援ツールをやられているということですね。

『KASIKA』は不動産会社向けのサポートツールです。特にマーケティングに役立つサービスを開発、提供しています。一般的には「マーケティングオートメーション」とされるものです。ホームページやメール追客を自動化かつ機能的にして、売り上げにつなげるのが目的ですね。ITを活用したマーケティングオートメーション用のツールは世の中にたくさんありますが、当社では不動産業の中でも、特に販売に特化したものをつくっています。

―どんな効果があるのでしょうか。

私たちのサービスのコアではないのですが、まず集客を効率化します。

不動産会社は、ネットでリスティング広告などを打つというよりも、主にSUUMOやLIFULL HOME‘S、atHomeなどで「買い」の集客をしています。

そのこと自体は悪いことではありません。しかし、ホームページを見たり、問い合わせをいただいたお客様を自社で囲い込んでお客様に育てていったりという発想が少ないと思うんです。例えば、自社のHPでコンテンツを持っていれば、そこからeコマースの世界で言うコンバージョン、不動産業界で言えば反響獲得率や成約率をあげていくのが目的です。

―そうしたネットを活用した営業はまだまだ伸ばせるというわけですね。

住宅販売の中には中古リフォームであったり、新たに家を建てたりもあります。どちらにせよ、お客様は人生で一番大きな買い物をする。それにも関わらず、そのマーケティングの進歩は他の業種に比べて遅い。そこで「他業種で浸透してきているマーケティングオートメーションの技術を不動産に特化して進化させたらこうなるんじゃないか?」あるいは、「こうした方が良いんじゃないか」という思いでサービスを開発しています。

―さまざまなサービスがありますね。

サービスを開発のスタート地点はエンド向けでした。つまりお客様の部分です。「お客様分析」から作って、その分析のためにステップメールを使った「顧客育成」に発展し、今年3月には集客の始まりである反響アップのためにHPの「ポップアップ」をリリースしたという順番です。

―これまでの不動産会社がやっている営業と、エンドの望むものとはミスマッチがあるということですか。

あります。

そこを解消するのは難しくはないです。私は以前、楽天で働いていましたが、すでに楽天やAmazonでは当たり前にやっているようなことです。サイトを見ていたり、メルマガやポップアップでなんか考えもしなかった商品が紹介されたりして、「あれ、なんで分かっているの?」と思ったことがあると思います。

個人の行動や趣味嗜好をデータ分析して、より良いものに巡り会ってもらうという技術を、ホテルなどオンラインで予約や購入する世界ではすごく活用しています。不動産や住宅販売業界では、まだまだ活用できるはずのデータを使っていないですね。

―業界全体でのITリテラシーの低さが問題ですか。

まあ、最終的にオンラインで家を買う人はいませんからね。そもそもホテル予約や消費財の購入に比べれば、住宅を買う回数が少ないということもあるのでしょう。ITを活用したマーケティングオートメーションよりも、店舗などでの接客にコストをかけるという発展をしたのかもしれませんね。

でも、お客様のデータを分析すれば、「ネット上でこんな活動をしていて、こういう住宅を購入する見込みが高い」ということまで分かる。それなのに、営業担当の社員様の活動には反映されないとしたら、このデータと実際の営業が分断されている状況を変えればいいとなりますよね。そこを繋いでいけば、不動産会社にとっては、集客からの歩留率が良くなります。

―良くなりますか。

なりますよ。

お客様に対して一番良い提案ができるので、HPを見ている人、もしくは自社で反響を獲得した人に対する成約率を高めることができます。お客様側からしても、自分が一番欲しかった、自分にあった良い家に巡り会える可能性が高まる。

知らない商品をおすすめされたこと自体を「いやだ」と思う気持ちにはならないですよね。「おすすめの映画が表示されて、見てみたら面白かった!」のように、家もそういう形で自分が探している以上の良いものをプロに紹介されたいのでないでしょうか。

「お客様の行動を分析して、わかったおすすめの住宅を紹介する」

これは別に通販サイトのように、ネット上で紹介しなくても良いんです。営業の担当社員を介して行われることで、更に信憑性が増すかもしれない。そうした人を介した、人を含めたマーケティングオートメーションといった方が理解されやすいかもしれませんね。

当社のやろうとすることは不動産営業に特化したマーケティングオートメーションです。ネット上で完結しないのも、不動産業向けのマーケティングオートメーションの特徴かもしれませんね。

―現状では、不動産、住宅を購入する「買い」のエンドは、問い合わせから実際に購入するのは、どれくらいの比率になるのでしょうか。

まずお問い合わせ、反響獲得としてはSUUMOやHOME’Sなどポータルサイトが多くて、次に自社HPや店舗に来ていただく、分譲であればモデルルームに来場というのもあるかと思います。厳密にはパターンが違うので大まかにまとめると、反響獲得から成約が10%を超えていたら良いと言われています。

―10%を超えるというハードルは、例えばeコマースに比べて低いのですか。

そこは、すごく比べにくいです。eコマースは消費財が多いですし、何回もリピートして買うものが多い。家を買ったり借りたりというものとは、明らかに違うので一概に比べられません。ここはデータが集まっていかないとなんとも言えないですね。

ただ、不動産業ではライバルの店舗と競争しているので、現状が10%ならばそこを上げていくことは考えないといけない。お客様から見ると、「より早く」「より自分に合ったモノ」が見つかる店に行きたいわけですから。

―これまでは凄腕営業マンがいて、「商品を押し込む」とか言われていました。

押し込むとかね(笑)言い方を変えると、ヒアリングして「背中を押す」ですね。

―背中を押すときに、これからはデータでしっかりとした裏付けをもってやるようになる。

まさにその通りだと思います。

データで裏付けをとる。ヒアリングだけではなく、お客様の行動内容も理解する。お客様の行動は、最初の希望から多少変わってくることがよくあります。

最初は見栄を張ってしまって、高めの予算を立てて「白金高輪で探す!」と言ったけれども、本気で探してみると「やはり違うなー」となり、「実は山手線内だったら何でも良い」という風に変わる。あるいは、さらに事情が変わって「都内なんて無理だ!」ということもある。

でも、最初のヒアリングシートに白金高輪って書いてあるから、ずっと白金高輪の1億2,000万円のマンションばっかり提案していても無視されちゃいますよね。こういう時は、「実はどこのマンションが欲しいんだろう」とお客様の活動を見て分析しながら提案をしていくと分かる。

―活動内容で提案すべきものがわかるんですね。他にもわかることはありますか。

もう一つ重要なのはタイミングですね。

成績の良い営業社員によると、実は一番難しいのってお客様を追い続ける中で、次のアポを取るタイミングだと言うんですね。

これは「売り」のお客様も同じだそうです。売ろうかと思って査定を見たけれども、ちょっと売る気持ち下がっちゃった。でも時間が経って事情が変わり、もう一度売る気持ちが上がるときってあるじゃないですか。そのタイミングを見極めるのが実は難しいと口をそろえます。

アポを取って会ってしまえば、優秀な営業社員はヒアリング能力が高いので「あ、これ絶対に嘘だな」「見栄張っているな」「買う気がないな」というのは分かる。だから、次のアポをとるタイミングを知りたい。そうしたことも、お客様の活動でわかります。ツールがタイミングを教えてくれるならば、やりやすくなるはずです。

ー具体的にはどういった形で支援するのでしょうか。

アプリでもメールでも、「お客様がHPを閲覧し始めましたよ」という通知が来るようになっています。「ああ、何カ月か前に見に来たお客様だな」というのが分かります。

実際に届くアラートメール。リアルタイムでサイト訪問を知ることができる(画像提供=Cocolive)

追客のために、月に1回電話して状況を聞いている会社があると思います。でも、お客様も嫌がりますし、無駄が多いのでやらなくなってきていますね。

そういった中で、お客様が活動を始め、「例えばメルマガを読んだ」「メルマガのリンクをクリックした」でも良いんですけど、何かしらの活動をしたら通知が来るようにします。

自分の送ったメールや自社物件検索サイトやモジュールで、「今こういう物件を見ていたんだ」「こういう条件で検索していたんだ」というサイト上での動きを詳細に分析して次の提案を考えることができます。

―上手く使いこなせるのか、という不安もありますね。

使いやすさに関しては、実際に不動産会社さんに使ってもらって作り込んでいます。例えば、以前は管理画面でURLだけを載せていました。しかし、「ここをクリックしました」というのでは使いづらい、という声が不動産会社からありました。「マイソクチラシを並べている感じにて欲しい」という要望です。

ですので、お客様が閲覧したのはこの物件というのが直感的にわかる仕様にしました。営業担当社員も「○○駅の近くのあれね」と思い出せるようですね。やはりそういう営業現場、一番使う現場の営業社員が分かる形でお客様の活動を分析できるようにしています。

KASIKAの管理画面「顧客カルテ」。顧客が見たページのマイソク型の履歴、メルマガ・営業メールの開封状況、営業活動が時系列で並ぶ。(画像提供=Cocolive)

―でも「お客様、昨日の何時にこのページ見られていましたよね」というようなアプローチは…

絶対しないほうがいです(笑)あくまでも参考にしてもらう(笑)それをしたからといっても、法律的に問題があるわけではないんです。あくまでも自社のデータを使って最適な提案をしているだけなので。ただ、気持ち悪いですからね、そう言われちゃうと。Amazonのレコメンドも「あなたの行動を分析して提案してますよ」といわれたらちょっと気持ち悪いじゃないですか。

―今後は、行動データがとても重要になる。

はい。分析をするために、情報を集める。でも「いやいや、ウチのお客様はあんまりHP見てくれてないんすよね」という会社もあると思います。ですので、リテンションのマーケティングをやりましょうという提案もします。「メルマガ始めましょう」というような感じです。

1カ月に一回など、回数を決めて新着物件やテーマ別に欲しい気持ちを高めるメールマガジンサービスですね。これは去年9月に始めました。

ただこれも、メルマガをやる気があって、たくさんの文章を書き込める会社しかできない。じゃあ、ここもある程度オートメーション化してしまおうと考えました。実際の接客でも「川崎市に住む場合には…」といった内容は毎回同じことを話していると思うんです。それをステップメールという便利な機能で、送ってしまおうというわけです。

戸建てのお客様から資料請求があったら、「ウチの建築のこだわりはどういうものか」というメールを必ず1日後に送っておきましょう、というのを自動化しています。

メルマガとかステップメールというのは、ツールとして難しいモノではないんです。我々が業界特化型としたのは、ある程度の業者に寄ったテンプレート化しているからです。「御社の特徴ってなんですか?」「御社の売りってなんですか?」というのを聞きながら、一緒に作っていくと考えてもらえれば分かりやすいですね。

―Cocoliveと一緒にマーケティングオートメーションに取り組んでいくんですね。

もちろんツールだけ使ってくださるところもあります。現在、全体で約30社が利用されています。しかし、ツールだけ導入いただいているのは30社の内2~3社じゃないでしょうか。私たちがメールを書くわけではないですけれども、やっぱりエリアに特化した情報や事業者に特化した作りはあります。コンサルテーションを含めた形のサービスになっています。

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