遠くない将来、不動産テックによって不動産ビジネスは劇的に変化すると言われている。

これまでの商慣習や仕組みごとかわり、無数の新ビジネスが生まれるかもしれない。

不動産テックに関連する企業経営者や行政機関などに取材し、不動産テックによって不動産ビジネスがどう変わっていくのかを考えてみる。

中古不動産流通ポータルサービス『Renosy』(リノシー)を手がけるGA technologies(東京・渋谷区)・樋口龍社長に話を聞いた。(リビンマガジンBiz編集部)

GA technologies・樋口龍社長(撮影=リビンマガジンBiz編集部)

元サッカー選手から不動産業界に身を転じた。

30歳の節目に独立した。

今年2月、物件検索機能や管理状況、契約書情報などの情報が一元で管理されるプラットフォーム『Renosy』ウェブ版をリリースした。自社の不動産販売ツールとして使う他に、今後は外部への販売も行っていく予定だ。

主力事業の不動産販売で培った発想をテクノロジーで具現化していく。

その過程は、不動産会社側からの不動産テックへの回答とも言える。ITや金融など他業種から参入してくることが多い不動産テックの流れに、大きな影響を与えている。

―サッカー選手から不動産業界に身を転じ、今は不動産テックに取り組んでテクノロジー企業に会社を変えようとしています。なぜテクノロジーに力を入れているのでしょうか。

「不動産業界がアナログ中心で遅れている」と思ったわけではないんです。私は24才までやっていたサッカーをケガで断念してから、不動産の世界に入りました。

正直、20代中盤までサッカーしかやっていない私を受け入れてくれたのは不動産業界しかなかったんですね。だから、サッカーと不動産しか知らないので、そもそも不動産業界が遅れていると気づかないんですね。

ただ、ソフトバンクの孫正義さんの著書を読んで、感銘を受けたことがありました。孫さんが「これからは情報革命だ」「この世のなかはIT以外あり得ない」と言っていて、実際に通信ビジネスで世の中を変えていっているのが、強烈に印象に残っていた。だから、「何か大きなことをやるならテクノロジーだろう!」というのはありました。そこで、自分の得意分野である不動産にテクノロジーを掛け合わせて行くなら、何かできるかもしれないと思っていました。

―では、起業の時からテクノロジーを重要なものと考えていたんですね。

そうですね。ただ、自分が開発のコードを書けるわけではない。それに、先ほどもいった通り、不動産業が遅れているという認識もない。そこで、ITの業界とコミュニケーションをとっていきました。その中で「これっておかしいよね」と気づくことがたくさん出てきたんです。

だから順番が逆なのではないかと思われるかもしれませんね。「アナログだから変えてやろう!」ではなく、「どうやってテクノロジーを不動産業界にも入れられるのだろう?」と考えて取り組んでいたんですね。「不動産会社で働いているなかで気づいた」という方が綺麗だとは思いますが(笑)。

―どんなことに気づいたのでしょうか。

例えば、当社では各部門がスプレッドシートで物件管理、顧客管理をしていたんです。だから、各部門が同じデータを入力しているなんていうことがあった。すごい無駄なんですが、それが当たり前になっていると気がつかないんですよね。「テクノロジーを取り入れる」と決めたから、気づけた点は多いですよ。

(撮影=リビンマガジンBiz編集部)

―「テクノロジーをやる!」という時点で、業界を俯瞰したレイヤーで見られたということですね。

いろいろ調べてみるとそういう問題はたくさんでてくる。ある時点で「運輸・通信業」と「不動産業」のIT化率を比べてみたら、100対3くらいの差があった。もちろん不動産業のボロ負けなんですが、それって本当なんです。

―『Renosy』のウェブ版を発表したのが今年の2月でした。実は、その以前にも取り組んだものがあったそうですね。

実はこれまで3つサービスをつくっていて、失敗しました。

テクノロジー側の視点で無駄を排除しようとしてサービスをつくるんです。「他業種ではこうやっている、それを不動産業にも応用しよう」という流れで考えている。するとニーズがないんですよね。アイデアを考えているだけになっていた。

今の事業が成功したのはサービスをマーケットインに変えたからです。日常にある課題を見ることができるようになって、そこにテクノロジーでソリューションをもたらすと考えられるようになった。これは、僕らがリアル(不動産業)をやっている強みなんです。それこそがまさにユーザーが求めているニーズだったんです。

不動産業務は本当に複雑で、煩雑です。取引に関わる人がたくさん出てきます。ローン付けする銀行の人、物件管理する人、顧客データを管理する人、物件仕入れの時に財務をみる人…このうちの誰かのソリューションが別の誰かにとっては、必要ないものだったりもする。そういう関係性の中で、試行錯誤しながらやっているプロセスの中で行き着いたのが、3つの課題なんです。

1つ目は、情報の非対称性

2つ目は、テクノロジー化の遅れ

3つ目は、中古流通の低さ

個別の問題ももとをたどると、この3つに行き着くんですね。これらが、日本の不動産業界やReTech(不動産テック)がグローバルスタンダードから大きく遅れている理由だと考えています。だから、この3つに対してアプローチを繰り返しています。

でも、最近はもう1つ「人材」があるなとも思っています。人材の質を変えなければいと根本解決にはならない。

1つ目の課題、情報の非対称性は『Renosy』で解決を目指しています。

2つ目のテクノロジー化の遅れというのは『Techシリーズ』という生産性を上げるための社内業務システムを自社で開発しています。

3つ目の中古流通に関しては、当社の主力事業が中古不動産の売買ですから、当社の拡大がそのまま課題解決につながります。

そして4つ目、「人材の質」がともなわなければ、本当に不動産業を変えるような大きな力になりません。4つセットになってはじめて解決するのだろう。実はどの不動産会社・不動産テック会社も、4つのうちどれか1つしかやってないんですね。

人材に関しては、これは私自身の経験もあり、日本の不動産エージェントや不動産会社で働いている人は「どの業界にも受け入れられなかった」というのが大前提なっているのではないかと。学歴不問じゃないと採れない。もちろん、学歴ではなく多様な切り口で採用しているというのなら、問題はないんですが、実態はそうではありません。

そういった意味では、不動産業界はブランディングが下手です。サッカーに例えるならば、プロが泥臭い練習をしていて、その泥臭いところだけを少年に見せるか?ということなんです。やはり華やかな面を見せますよね。憧れの職業にしたいから。この業界はそういった意識が低い。当社がオフィスやコーポレートサイト、ロゴ(CI)のデザインにこだわって、お金をかけるのはそういったイメージを払拭したい狙いあります。

―学生が思う「優良企業」や、「就職したい会社」になりたいと公言されています。

徐々になりつつあります。今、当社の新卒就活生に聞くとDeNAなどのIT企業と当社を比べていたりします。不動産業界でもハウジングメーカーなど新卒採用はありますが、当社に応募する学生とはバッティングしないんです。不動産業界で働きたい人ではない人材に当社のことが届いているのは実感できています。

>>続き:GA technologiesがてがけるサービスとは

 
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