遠くない将来、不動産テックによって不動産ビジネスは劇的に変化すると言われている。

これまでの商慣習や仕組みごとかわり、無数の新ビジネスが生まれるかもしれない。

不動産テックに関連する企業経営者や行政機関などに取材し、不動産テックによって不動産ビジネスがどう変わっていくのかを考えてみる。

今回は、投資用不動産営業ツール『PORT』(ポート)を手がけるPORT(東京・港区)・齋藤英晃社長に話を聞いた。(リビンマガジンBiz編集部)

PORT・齋藤英晃社長(リビンマガジンBiz編集部)

―『PORT』とはどんなサービスですか。

投資用不動産販売会社の営業社員向けのサービスです。

各営業社員が自分のマイページを持ち、投資用不動産を提案するお客さんごとに顧客情報を入力していきます。そして、社内で共有されている物件データと顧客情報を突き合わせます。銀行と金利を設定することで返済のシミュレーションなどが簡単に提示できます。基本的にお客様に提案する際に必要な資料一式が作れるようになります。

これまではこのような資料作成はエクセルでやっていました。それぞれの計算式のひな型を作成して、お客様ごとの数値を打ち込んでいきます。でも、すでに投資用不動産を1戸所有している方とすでに2戸所有している人のシミュレーションというのは全く別です。条件が違えば、エクセルのひな型はほとんど役に立ちません。

PORT』を使えば1戸でも100戸でも所有した時期がバラバラでも、簡単にシミュレーションができます。結果として、正確で納得いただける投資プランの提供につながります。

齋藤社長自身もかつては投資用不動産の販売に従事されていたそうですね。『PORT』にはその時の経験が反映されているとか。

私が大学卒業後に飛び込んだ業界が不動産投資の世界でした。総合デベロッパーで6年間投資用不動産の営業を担当したのですが、その時の経験の中で「こういったモノがあれば役に立つのではないか」と感じるものがありました。

―どういった課題があったのでしょうか。

まず、不動産投資業界は世間一般からグレーな世界だと思われていることです。信用されていないんです。

その要因の一つがお客様に対して営業に関わる正確な資料を提示できていないことだと思いました。なぜ、資料が提供できていないのかというと、資料作成に膨大な時間を要するからです。お客様の年齢や状況によって、不動産を購入してからの収益シミュレーションを作ると、「何歳のとき」に「いくらくらいの物件」を「何戸」、「どういった目的」で持つのかを細かく見ていかないといけません。当然ですが、お客様の人生設計は、それぞれ全く異なります。それをお客様ごとに、収入の状況によって返済プランを考え、賃料下落の予測を出し、リスクの解析もする。

とても煩雑な作業で、エクセルでこなすには、非常に時間がかかります。営業担当社員が毎日、この作業をやるのは不可能に近いと思います。しかも、正確かどうかはわからない。

ここは絶対に変えなければいけないと思い『PORT』を開発しました。

投資判断をする上で重要な将来シミュレーションが正確ではないのは問題ですね。

はい、シミュレーションは不動産投資の根幹だと思います。一般の投資家は数字でしか判断できませんからね。

やはり正確かつ柔軟な条件でのシミュレーションを提供しなければいけません。今も多くの営業社員は、資料を会社のオフィスで作成し、印刷してお客様に持参しています。しかし、お客様との面談中に、新しい事実がわかったり、お客様の考えることが変わったりします。『PORT』はスマホからでも操作することができるため、画面を見せながら様々なシミュレートに柔軟に対応できます。

また、資料をオフィスでしか作れない会社では、営業担当社員が深夜に会社に戻って資料を作るといったことを頻繁にやっています。こうした長時間労働から解放されることにもつながります。

こうしたサービスを制作された課程についても教えてください。

先ほどのシミュレーション機能だけでも何度も改良をしています。

例えば、金利の変動シミュレーションを作成するときに、金利が変動した翌月から返済金額がどのくらい影響するかは借り入れの形態によって違います。また、金利が変わっても5年間は毎月の返済金額が変わらず、元本と金利のバランスを5年後に返済額の125%を上限に見直すという銀行もあります。こうした複雑な借り入れ形態でも、項目を選択するだけでシミュレーションが可能です。そのほかのあらゆる返済プランにも対応しています。

―他にはどんな機能がありますか。

例えば、ローン返済のプランニングです。頭金をいくら用意すると返済がどのように変わっていくのかといったことを、リアルタイムで再計算することができます。そのほかにも、長期で保有したときのキャッシュフローのシミュレーションも可能です。最初に支払う不動産取得税や、毎年の固定資産税、管理費や賃料収入などをグラフ表示にして、長期間でのシミュレーションを行います。

好評なのが物件のローン完済までに必要なお金の算出機能です。それを活用して借り入れ完済後に、何年その物件を持てば黒字化するのかがわかります。

想定売却価格の算出も可能なため、どこで売れば利益が出るのかなどもグラフ表示でき、感覚的に理解していただくことができます。

また、同時多発的に様々な条件を掛け合わせてシミュレートが可能です。

何年ごとに物件価格が何%下落して、何年後に賃料がどう変わるのか。空室が何%出て、礼金がどう減っていくか、その間にローンを繰り上げ返済して、金利がどれぐらいの期間にどれぐらい見直されるのか、設備の補修が何年ごとにあるのか。これらのあらゆる条件を矛盾なく、バグもなく成立させるのが基幹部分です。このあたりの開発が大変でした。

―不動産投資のシミュレーションをするとマイナスになる商品もありますね。

そういう物件もあります。あらゆる条件を掛け合わせて行くことで、ローン完済までに百万円単位でマイナスになってしまうこともあります。これも考え方次第です。

長期シミュレーション(画像提供=PORT)

私は不動産投資とは「木」を育てていくことで、賃料収入は「実」であると考えています。

借り入れがある段階はまだ十分に木が育っていない状態です。そのため果実が十分には収穫できません。しかし、大きな支出であるローンを完済すると、あとは木と実だけが残ります。つまり木ごと売ることもできるし、実を収穫し続けることもできるようになる。

PORT』ならば、こういったローン完済後の長期シミュレーションまで示しながら営業活動ができるのです。

―「木」という考えは不動産営業をしていた時からの考え方なのでしょうか。

そうです。業界の常識ではありませんが、私が感じていたことです。

投資物件を購入されたお客さんが不満を感じている場合、商品や投資に対する知識が不足していることがあります。

長い目でみた場合は、そんなに悪い運用状態ではないのに、一時的に持ち出しが必要になったら「投資した意味がない」と感じている方がいることも多いんです。でも、長期でシミュレーションすれば結果的に利益が出ることが分かる。

PORT』は、お客様に深く理解してもらうために有効なツールです。グレーでなはなくクリーンな営業を促し、お客様にも「怪しげな商品を提案されている」とは思われずに、購入までの意思決定を演出しやすい作りにしています。

―経歴を拝見すると2004年に大学卒業し、総合デベロッパーに入社、2010年に前職を辞めて、PORTの制作を始めたそうですね。そして2012年にPORT社を設立しています。その2年間にどういった準備をされたんですか。

私自身がプログラミングを書けるわけではないので、海外委託でのサービス委制作を考えていました。しかし、膨大な計算データを扱うため、数値の算出ロジックが非常に複雑で、なかなか納得のいく仕上がりになりませんでした。

本当にトライ&エラーの繰り返しでした。

PORT』は不動産投資の営業担当社員が使うツールです。ということは、すでにある企業の営業インフラに入り込んでいく必要があります。

会社にも社員にもすでに営業における成功体験があるなかで、新たなサービスを提案することになります。改良を繰り返し続けて、皆さんにも理解していただく活動をしてきました。

1つのツールを多くの企業、多くの営業社員が使うので、今も企業ごとのカスタマイズを盛んに行っています。

―区分所有だけでなく、一棟のシミュレーションも可能ですか。

もちろん一棟のシミュレーションもできますし、実住用のローンシミュレーションも行うことができます。

今53社の不動産投資会社との提携があり、約3,000人の営業社員の方に利用いただいています。

>>続き:齋藤社長が構想するサービスの展望とは?

 
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