VSbias・留田紫雲社長(撮影=リビンマガジンBiz編集部)
不動産会社が気づかなかった空間のニーズとは
―そこからVSbiasを起業まではどういった流れだったのでしょうか。
ITに関連した数社でインターンを経験したことで、WebメディアやWeb広告について。の知識が深くなりました。その後、学生を続けながら個人事業主として、デジタルマーケティングに関連した仕事を受けるようになりました。
いくつかの案件を受けていたんですが、その中で一番大きな転換点であったのが、ある不動産会社からの「賃貸の集客を手伝ってくれないか」という相談でした。
そこで、私が提案したのが「外国人向けの賃貸サイト」でした。
日本人向けの賃貸は、SUUMOやHOME’Sといった強力なサービスがあるので、なかなか勝てないと感じていたんです。
しかし、外国人向けの賃貸サイトは、少なかった。外国人って、賃貸物件を借りることに関しては日本人よりもさらに大きな負担がある。簡単には借りられない状況があるわけですよね。家賃債務保証会社の問題などもあります。私は日本にいる間も留学生寮に住んでいたので周りに外国人の友人も多かったのですが、みんな住居に困っていました。
また、そこにソリューションを提供している会社も少なかった。だったら、やれば「絶対、うまくいく」と思い提案をしたのが不動産業界と関わることになったきっかけになりました。
外国人に向けた賃貸ポータルサイトを英語、中国語、韓国語の3カ国語別で展開し、さらに仲介の営業マンも、家賃保証会社も3カ国語を話せる人たちで固めて、サービスを立ち上げました。
これがかなりうまくいって、3カ月目ぐらいで100件ぐらい月の問い合わせが来るようになりました。また、日本人に比べ問い合わせ単価が10分の1ほど安く、かなり成果が出たんですよね。
―完全に外部の視点から不動産ビジネスを見たときに、ニーズを見つけられたわけですね。
事業をやっていく中で、外国人からの要望として「短期滞在(1ヶ月程度)向けの住宅はないのか」という要望がとても多いことに気づきました。
そこでたまたま、Airbnbをやっている知り合いがいたので聞いてみると、すごく使われているんですね。
また、ちょうどそのころにオーナー様や管理会社様から、空家の活用についての相談が増えてきたんですよ。「外国人でもいいからいれたい」というのが多かったので、短期滞在する外国人向けの家具付き賃貸物件として貸し出す提案をしました。
外国人のニーズに合わせてオシャレな家具を入れたり、クロスをちょっと和風っぽいものにしたりすると、家賃10万円でも借り手がいなかった部屋が、20万円で入居がついたこともありました。
「物件自体が同じでも、人によって感じる価値って変わるんだな」と、すごく大きな気付きがありました。
また、不動産業界では、こういったニッチなニーズが吸い上げられていないという課題も感じました。右向け右で、「何となく他もやってるから同じようにやる」という考え方が多いと思ったんです。
VSbias・留田紫雲社長(撮影=リビンマガジンBiz編集部)
―ニーズをきちんと把握せずに慣習どおりにやっている部分が多い。
例えばインターネット広告の世界では、ユーザーの属性に合わせてパーソナライズされた広告が主流になっています。これが可能になった背景には、各ユーザーの行動をトラッキングできるようになったことが挙げられます。
じゃあ、ユーザーの不動産に対する需要や行動情報の可視化が進むと、不動産業界も、建物の立地、規模、構造や、季節、時間などから、需要に最適化された業種・業態がどんどん生まれてくるんじゃないかと思って、創業したのがVSbiasです。
当社は不動産をあえて「空間」と呼んでいます。「不動産」だと、文字通り柔軟に変化することが難しいと感じるからです。「空間」は本来、ニーズに合わせて柔軟に変化するべきだと考えています。
マーケットデータはインターネットを通じて存在しています。それを集積して、解析することで、例えば、「この場所だったら、この構造だったら、この間取りなら、こうした方が良いですね」ということが、言えるようになるんじゃないかなと、考えました。
そうすれば、ユーザーのニーズに合った空間が増えますし、オーナー様にとっても収益が上がるはず。良いマッチングが生まれるんじゃないかなと思いました。
―そうした空間のニーズのひとつに宿泊施設がある。物件を宿泊施設として提供することや短期の滞在として活用するというのは、不動産業界には受け入れられているのでしょうか。
今のところ、まだ一部ですね。
でも我々だけでなく、例えばAirbnbなども含めると、かなり業界に理解され始めていると思います。
空き家の活用に困っている不動産会社は確実にいるわけです。今、管理会社や仲介会社との取り組みが増えてきています。「賃貸物件では売りづらかった物件が、宿泊施設にすると高く売れた」といった事例も出始めています。
このように視点を変えると新しい収益物件としての売り方ができたり、セカンドハウスや別荘を自分が使ってない間は、宿泊施設として貸し出して収益を生むといった、新しい物件の活用方法ができている。結構そういうことに積極的な企業も出てきています。
こうした成功事例が認知され始めると、いっぺんに広まるのではないでしょうか。
>>次のページ:留田社長の「移動産」(3ページ目)