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本間純氏(撮影リビンマガジンBiz)
 

ーそれも日本の現状を反映しているのかもしれませんね。

本間 海外のことが多くなって、日本にはネタが少なかったのは編集する上でも大きな悩みでした。海外の事例をまとめただけでは、かなり限られた人にしか届かないと思っていましたから。ただ、最終の制作段階になって、三菱地所のスタートアップ投資が100億円を超えたり、デジタルガレージが国内初の不動産テック・アクセラレータを開始といったニュースが舞い込んだので、日本の将来に向けた兆しのようなトピックスを盛り込めたといえるかもしれません。

北崎さんも仰っていますが、本書の特徴としては網羅性が高いこともあげられます。不動産テックといっても、「不動産」が指すものは非常に幅広い。住宅に関連する不動産テック企業は住宅分野しか見えてない。事業系の不動産を扱う企業も、そこだけ見ているように思います。そんな現状のなかで、かなりの領域を網羅できる資料としては有益なのかと思えます。

ー「不動産」が指すものが幅広いのと同時に、「テック」という言葉が指すものも非常に幅広いですね。どこまでがテックと言えるのかについて悩まれたと思います。

北崎 日本の不動産テック企業のなかでも、事業の中身は既存の不動産ビジネスとあまり変わりがないと言われているところもありますね。ただ、それはアメリカも同じです。面白いのは、「テック風」な企業が、だんだんホンモノのテック企業になるということもあり得ます。

例えば、コンパス(※1)という企業があります。不動産テックの代表的な企業と紹介されたりもしていますが、IT活用によるコスト削減を原資として、実は腕利きのエージェントを高い報酬で引っ張ってきているだけで、事業の本質は住宅の売買仲介です。

1万人以上のエージェントが登録されていて、労働集約で実は利益率も低い。だから、「どこがテックなんだ」と、アメリカでもたたかれています。WeWorkだって、「ビルを転貸しているだけじゃないか」という指摘がある。でも、不動産テックを志向していれば、技術を持ったスタートアップ企業を買収するなどして、既存のビジネスモデルを転換するゲームチェンジャーとして化ける可能性がある。日本の現状も悲観することはないのかもしれません。

※注1=コンパス…高額物件を中心に取り扱う全米3位の住宅仲介会社。腕利きエージェントや地方住宅仲介大手を次々と買収して急成長した。

本間 私は最終的にテクノロジーカンパニーになるかどうかではなく、収益を上げる会社になれるかどうかの方が重要だと考えています。また、経営陣がどういったビジョンを持っているのかも重要かもしれないと感じています。

「そんなのはテックではない」といった批判的な目も、各企業の本質的な違いを認識するためには、とても意味があります。例えばコンパスに対して、eXp Realty (※2)は根本が違います。両社ともデジタルに強い不動産仲介として同列に語られますが、eXpはオフィスもないし、店舗もない。全ての業務システムがオンラインにある。彼らはクラウド・パワード・ブローカーと自称しています。住宅仲介で急成長する企業同士ですが、本質は違います。

※注2=eXp Realty…無店舗型の住宅売買仲介会社。1万5000人以上のエージェントが所属するが、オフィスや店舗がなく、会議はネット上の業務システムとアバターを介して行う。

▶次のページ:テックの本場だが…アメリカの実情(3ページ目)

 
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