新型コロナウィルスの感染拡大にともない世界経済は激震に襲われている。経済の落ち込みだけでなく、人と人との接触事態を避けなければならない状況下では、従来型の不動産営業そのものが否定されている。

また人が集うこと、そのものにリスクが内在する以上は不動産ビジネスも大きく変化しなければならない。

eqon・三井將義社長(取材は2020年4月23日に通信環境で行った)

―新型コロナウイルス不動産業界にどのような影響を与えていますか。

当社が独自に集計しているデータでは一都三県のマンション・戸建ての売り出し件数が、平常時に比べて約7割減しています。

平常時では毎週6,000件ほどのマンションが売りに出されていました。しかし、2020年4月中旬には、2,000件まで減少しています。

週別マンション売り出し数(一都三県) 画像提供=eqon

戸建ても同様で、毎週5,000件ほど会った売り出し件数が、1,500件にまで減少しています。

週別戸建て売り出し数(一都三県) 画像提供=eqon

―具体的にどのタイミングから減少したのでしょうか。

我々は、毎週金曜日の売り出し件数に注目しています。なぜなら、土日に専任・専属専任を受託した不動産事業者が、翌週の金曜日にレインズに登録する傾向が高いためです。

毎週金曜日の売り出し件数(マンション) 画像提供=eqon

2020年1月から、毎週金曜日の一都三県のマンションの売り出し件数を集計した結果が上記のグラフです。

毎週金曜日には1,500件ほどの新規売り出し件数がありましたが、4月3日金曜日は半減しています。これは、東京都の外出自粛要請が3月28日土曜日にあったことで、翌週の金曜日に大きな影響が出ているということです。また、4月7日火曜日には緊急事態宣言も発令され、さらに落ち込んでいます。

毎週金曜日の売り出し件数(戸建て) 画像提供=eqon

このデータでは一般媒介で、同じ物件を複数の不動産事業者が売りに出した場合であっても1件とカウントしているので、かなり実勢に近い数値だと考えています。

―不動産会社からはどういった声があがっていますか。

東京都内、社員5人ほどの仲介会社では、「4月の売上はゼロだ」と頭を抱えていました。業者間の取引はまだなくなっていないが、エンドユーザーからの売上はない、というところも複数社ありました。

購入や客付けメインの会社は悲惨です。10社に話を聞けばほぼ全ての会社は売上が激減しています。

―影響はどこまでいくのでしょう。

購入や売却で動いていた顧客も「待って欲しい」と止まっている案件も多いようです。

また、金融機関の事情で案件が止まっていることもあるようです。2020年4月現在、金融機関の融資姿勢は変わっていません。しかし、金融機関の窓口である担当者がテレワークや在宅勤務になっていて、やりとりできないといった事態もあるようです。

新規の案件獲得がなくなり、動いていた案件まで止まっている。かなり厳しい状況です。

eqon・三井將義社長(取材は2020年4月23日に通信環境で行った)

―不動産事業者にはどういった選択肢があると考えますか。

それには、アメリカの不動産業界の動きがベンチマークになると思います。

アメリカの大手不動産テック企業のRedfin(レッドフィン)は、2020年4月に登録エージェントの41%をリストラしました。

また、アイバイヤーとしてアメリカ最大のサービスを提供しているZillow(ジロウ)が、アイバイヤーをやめて、VR内見などのテックサービスの拡充に大きく舵を切りました。

こういったことは、日本の不動産マーケットでも起こりえることだと思います。

―今後ますます遠隔提案や電子契約といったテクノロジーの活用が求められるのでしょうか。

ITやテクノロジーに対応できる会社と、できない会社にはっきり分かれていくと思います。

日本の不動産業界にいる多くのプレイヤーは、これまでITやテクノロジーを見てこなかった。対面での接客がなくなっているなかでは、オンラインが勝負になってくると思うのですが、戦い方を知らない方がかなりの割合です。今後は、オンラインでの接客や提案、営業は定石になっていくでしょう。

ただ、今回の新型コロナウイルスによって、事業者の精神構造にも変化が起こっていると感じています。

―それはどういった部分でしょうか。

当社が2019年9月にリリースした「PinRich(ピンリッチ)」は、購入や売却を検討している顧客に対して、希望エリアや対象物件周辺の最新の成約・売出事例を自動でメールを送ることで、追客を行うサービスです。

「PinRich」 画像提供=eqon

顧客と電話が繋がらない、メールの返事がないといったケースでも、「PinRich」で自動的にメールを送り、顧客のリアクションを把握し、意欲的な顧客を見つけることができます。

現在150の担当者に利用頂いていますが、4月以降、不動産事業者からの「サービスを使いたい」という問い合わせが増加しています。新規反響がないので、過去の顧客から売上を上げていきたいと考えているようです。

―過去の顧客を掘り起こしたいというニーズがあるのですね。

例えば、5年~10年前に不動産を購入した顧客が、今は売却を検討している可能性があります。ただ、10年前の顧客にいきなり電話するのは、営業社員の心理的な抵抗感もある。そこが「PinRich」ならば自動で行うことが可能です。

また、過去に成約した顧客に対してもコミュニケーションを取るためのきっかけ作りとして「PinRich」を利用いただくケースもあります。

不動産事業者もなりふり構っていられない状況なので、過去に購入した顧客にもメールを送り、売却相談などを獲得しています。

アメリカのエージェントでも、自身の友人や家族、過去の繋がりといったところから案件を作ろうとする会社が多いですね。

アメリカの大手不動産会社のケラー・ウイリアムズは、広告費を一切使わないことで有名です。なにをやっているかというと、1店舗当たりにものすごくたくさんのエージェントが登録していて、そのエージェントが、四半期に1回、家族や前職で取引のあった人に「最近どうですか?」というメールを送って案件を取ってきます。

―事態に窮した不動産会社が陥ってしまう間違いはあるのでしょうか。

マーケティングコストを間違った方向にかけてしまうことです。

つい最近、ある不動産事業者から「オウンドメディアを立ち上げたい」という相談がありました。恐らく新規案件獲得などに困ったなかでひねり出した案だったのでしょう。

また、自社HPの拡充や、自社ポータルサイトを作りたいといった相談も多いです。しかし、「やめた方が良い」と私個人は考えています。

オウンドメディアも自社HPも自社ポータルサイトも、成功するのはごく一部の企業だけです。そういったことに注力するのであれば、今ある不動産テックと呼ばれるサービスで何ができるのかを調べて、真剣に考えて欲しいと思います。

―コロナ禍においてテクノロジーによって提供できる価値とは何でしょうか。

新規反響が取れない局面においては、過去の顧客への追客が注目されています。

今、追客案件を商談化することは難しい。しかし、コロナが終わった後には必ず反動増があります。

そこをしっかりと刈り取れるように、まずは顧客のデータを整備することが大切だと考えています。今は耐えの時期です。いかにアフター・コロナでの初速を高めていくかが重要です。

eqon・三井將義社長の過去インタビューはこちら
 
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