世を挙げて働き方改革が叫ばれている。


なかでも不動産業界は人手不足が深刻で、効率のよい働き方を追求することが求められている。同時に人材獲得のためにイメージ向上が必要だ。


本企画は、世間一般の不動産業=高い歩合給と引き換えの過酷なノルマ、男性社会の上意下達の労働環境といった、一般に広まった業界イメージから脱しようとする企業を取り上げ、不動産業の新たな働き方について考える。


前編に引き続き、ボルテックス(東京都・千代田区)の社内改革について紹介しよう。

社内改革と売上減少にはどういった関係があったのだろうか。

ボルテックス 人事統括部 人事部長 金井 勇一氏 撮影=リビンマガジンBiz編集部

▼前編記事▼

売上の減少は会社が良くなる予兆?

―右肩上がりだった売上が下がっています。現場はなかなか会社が良くなったという実感は持ちづらいのではないでしょうか。

実は、2017年4月に新しい人事制度を導入したことで、賞与の部分がかなり下がることになってしまいました。インセンティブ制度を廃止したことに加えて、賞与も下がってしまう。これまで支給していた賞与と比べて3割ほど下がる可能性がありました。一時的にしろ、これはまずいと思いました。

この時は私も役員とかなりの時間を割いて話し合いました。冷静な議論にならず、かなり白熱した議論になりました。でも、それぐらいお互い本音でぶつかり合った。

役員は「業績が良くなれば、たくさん賞与が出せる仕組みなのだから我慢しよう」という意見でした。しかし、若い社員は基本給も高くないなかで、賞与まで減らされてしまうと生活にも影響が出てしまいます。

そこで、賞与は会社全体の業績と連動が少ない形になるように交渉を続けました。

その結果、賞与制度を大きく変えることができました。従業員からすれば、今までは「人事制度が変わる=報酬を下げる」といったイメージがあったはずです。しかし、「そうではない」ということを少しだけ感じてもらえたかな、と感じています。

当社は、売上は下がりましたが、決して赤字になったわけではありません。

この人数で、この売上と利益を上げている。しかも、かなりの割合で賃料という固定の利益がある。経営の基盤はしっかりしています。

宮沢にも、「単純に売上が落ちたからといって、従業員の賃金を下げるということはやめましょう」と伝えていて、同意いただいています。

―人事制度委員会の立ち上げや社内教育体制の構築、賞与の改革など、比較的コストがかかる取り組みですね。

確かに、ある程度お金がかかっています。

しかし、今までがお金をかけなさすぎていたとも言えます。あくまで世間水準に持っていこうというのが今回の取り組みです。

この後も施策を見直しながら、一番良い方法を選んでいくという形になると思っています。

人事の社員からすれば、従業員がお客さんです。

お店にたとえるならば、まだ今は商品を並べているような状態です。これまでは、基本給と歩合と賞与ぐらいしか商品がなかった。これからは、例えば「ご家族に何かあったのであれば商品はこれです」「転勤したらこれがあります」「福利厚生の外部リソースを使えばこれもできます」といったように、ラインナップを揃えていく予定です

従業員が、会社にいることに安心を感じ、恩恵を受けられるようなセーフティネットを広げたいのです。

ボルテックス 人事統括部 人事部長 金井 勇一氏 撮影=リビンマガジンBiz編集部

―従業員の満足度を高めていくことで、ボルテックスの顧客にも還元できることはあるのでしょうか。

営業社員のモチベーションはとても大切です。

これから上層部と話し合っていくのですが、直近の人事制度委員会で「フレックス制」を議題に出しました。恐らく不動産業界でフレックスを入れている会社はあまりないでしょう。これを不動産業界にいる我々が、先駆者として打ち出すことは、意義深い。

不動産業界でもフレックスができるんだ」ということを打ち出そうと思っています。

早速一部からは「フレックスは反対」という声も上がってきていますが(笑)。

ただ、これまでの施策においても最初は反対をいただいていました。あまり短期的に考えず、ロングスパンで考えていくことを丁寧に伝えたいですね。

業界の慣習から離れた視点が強い組織を作る。

―不動産会社といえば朝礼があり、そこで成績を比べられ尻をたたかれるという、伝統芸能的な部分があります。

実は、毎日の全社朝礼もなくなりました。今は月曜と水曜のみです。

改革は人事部だけではなくて、経営や他の部門の協力がなければ成し遂げられません。人事制度委員会には、常勤の全役員や全統括部長が出席する会議です。「全員でコミットメントした」という認識を持ってもらうことが大切です。人事はあくまでもそのお膳立てをしただけと思っています。

言ってみれば、当社には「人事の視点」というものがありませんでした。営業を主体とした会社で、何よりも優先して「目の前の利益を取りに行く」という視点が強かった。しかし、社員が400名以上になり、ここまでの規模になると、今までのように全員が船の漕ぎ手で一個のことに力をあわせる、といった考え方は難しい。役割を分担して大きな船を動かしているという意識も必要です。

そして、より良い安全な航海ができるように、従業員の役割を見ていくことが人事の役目だと思っています。

▶次のページ:業界の慣習が企業成長を止める?ボルテックスの変化(2ページ目)

 
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