訳あり物件専門家  白石 麗花です。

不動産屋と現役ナースの2足の草鞋を履いていると

最期の時、人は何かをやり残していることに気づくのではないか

ということです。

 


 

命のバトンは誰に渡したかったの?

 


学園理事長が、最後まで隠し通したかったもの・・・

 

葬儀社の社長さんからのご紹介で、私立高校の経営者である学園理事長(田中さん 仮名)にお会いしました。

田中さんは末期がんを患っており、余命いくばくもないことを私に伝えたうえで、

残された家族のために、不動産の売却と相続対応を依頼されました。

葬儀社の社長さんからお聞きした理事長の評判は、極めて気難しい、

怒鳴られて話もできないかもしれないけど…というものだったので、

私は少々重い足取りで学園を訪問しました。

理事長室の隣の応接で理事長が現れるのをお待ちしていると、

案の定、壁越しに隣の部屋から大きな怒鳴り声が聞こえてきます。

お茶を出してくれた事務員さんがすまなさそうに、

「いつもあんな感じなんです。初めてお会いになるんですよね。驚かないでくださいね。」

と小声でささやく始末です。

これは大変なところに来ちゃったかもと思いつつ、

このまま帰ろうかと迷っている間に理事長は現れました。

想像していた通りのしかめっ面で、

ふんぞり返るという言葉そのままの大きな態度で理事長は部屋に入ってきました。

顔色がすぐれず、相当に具合が悪い様子が手に取るようにわかります。

それでも、事務員さんがお茶を入れなおし部屋を出て行った後、

意外にも神妙な面持ちになり、ご自分のことを明るい口調で話し出したのです。

自分が末期がんを患っており余命短いこと、

何としても自分の妻と二人の息子に不動産を売却して均等に遺産を相続させたいこと、

自分は今までずっと支えてくれた妻と自慢の息子たち二人に感謝していることを、

自分自身の余命が短いことなど何の問題にもせず明るく笑いながら教えてくれました。

また、田中さんには前妻の間にもう一人息子がいて、

その息子には十分なことをしてきたので、

その子には相続財産を残さなくていいし、妻も息子二人もそのことは分かっていると私に伝えてくれました。

私から、

「それならば、遺言で、前妻さんとの間のお子さんには財産を相続させないことを

ご遺志として残されたらいかがですか」とお尋ねしたところ、頑なにその提案を拒みました。

そこだけが、ちょっと心に引っかかります。

でも「この人、全然評判と違って、明るくて優しい人、

自分が余命短いことを宣告されているにもかかわらず、家族に対する愛に満ち溢れている」

と感じられて、私は田中さんから逆に明るい気分にさせてもらいながら部屋を出ました。

 

翌々日、田中さんのご自宅を訪問し、田中さんの奥様とご子息二人とお会いしました。

奥様も二人のご子息もとても仲が良く明るいご様子が感じられました。

ところが三人とも、田中さんのことを話すと表情が一変します。奥様もご子息二人も、

お父さんからは怒鳴り散らされているばかりで全く話ができない、

誰にでも怒ってばかりで何を考えているかわからないと散々です。

相続のことについても、やはり前妻との間のお子さんに相続させないとは聞いているのに、

それを遺言に残さないといってることが腑に落ちないご様子でした。

 

私はそのとき、なんとなく田中さんの思いが理解できたような気がしました。

田中さんが、隠したがっている事。

墓場まで持っていきたかった事があるのかもしれない。

それは、家族に対してのあふれるばかりの愛情、感謝の気持ちを実は持っている事。

本当は伝えたいけれど、前妻とのお子さんに対しても同様に気持ちがあることも含めて、

みんなに対してそれを隠したまま逝きたいと思っているんじゃないか…

 

ご家族の田中さんに対しての言葉があまりにも辛辣だったため、

私は思い切って、

私がお会いした時に田中さんからお聞きしたご家族に対する思いを伝えました。

どんなに、田中さんが奥様に感謝しているのか、どんなに息子さん二人を誇りに思っているのか、

自分の余命がないといわれた中で、どれだけご家族を愛していらっしゃるのか。

 

奥様も、ご子息も、信じられないといった顔つきで私の話を聞いていました。

途中で私も泣き出してしまっていました。奥様もご子息も涙が止まりません。

なんて家族って不器用なんでしょう。

そのままの思いを言葉にすれば分かり合えるのに、家族だからこそそれができない。

 

前妻の間のもう一人のご子息に対しても、田中さんは、

実は同じような思いを抱いていらしたのでしょう。

でも、ずっとその思いを心に秘め、かといって、今の家族にだけ愛情を注ぐことを潔しとせず、

だれにも心の内を明かすことができずに人生の幕を閉じようとされていたのでしょう。

長い間、自分以外の人間に笑顔を見せることなく厳しく接してきたのは

愛する家族に対してみな同じように愛情を表すことができないことへの

田中さんなりの対処方法だった、私は勝手にそう理解しました。

 

田中さんは今はもう病室にはいり、人生最後の時を迎えるべく準備に入っていらっしゃいます。

ご家族にも理解されたうえで、

前妻さんとの間のお子さんにも一部財産を残す旨のご遺志を遺言として作成なさいました。

 

理事長が最後まで隠し通したかったもの

理事長は隠し通せず、やすらかに、家族を思いながら、旅立つことになると思います。

想いを残さず最期の時を迎える

これはどなたにも当てはまる課題のように思います。

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