7月20日、日銀が発表した「展望レポート」が波紋を広げている。金融緩和による物価上昇の動きが鈍いため、目標とする2.0%の物価上昇率の達成は「2019年ごろになる」とのことだ。度重なる達成時期の見直しに不安の声も広がっている。では、今回の見直しは不動産業界にどういった影響を与えるのだろうか。「不動産購入」「相続」「空き家対策」の3点から、FP OFFICE 海援隊 重定賢治代表に予想してもらった(リビンマガジンBiz編集部)。


日本銀行 (画像=写真AC)

2.0%の物価目標の意味

アベノミクスが始まって以来、3本の矢のうちの第1の矢である「金融緩和政策」が続いています。
この金融緩和政策は経済を好転させるための景気刺激策のひとつです。世の中にたくさんお金を流通させることで、消費の活性化や企業業績の向上、賃金の上昇などを促すために実施されます。
特にアベノミクスでは、デフレからの脱却が主な目的となっています。

その中で「GDP600兆円」、「2.0%の物価上昇の達成」という目標が掲げられました。
600兆円のGDPを達成するには、名目で3.0%のGDP成長率が必要になります。
物価の上昇率を2.0%とした場合、実質ではGDP成長率が1.0%になることから、無理せず緩やかに経済が成長していける水準として、このような物価目標が設定されています。
これは、物価が急激に上がらないようにするための日銀の工夫とも言えます。

現在、日銀が行っている金融緩和は、経済成長率を高めるために物価を少しずつ上げていこうという政策です。
経済成長率の上昇が鈍く、物価の上昇も予定より後ずれしているため、国内の金利環境は依然として極めて低い状態で継続していくとしています。

日銀は、金利を上げも下げもせず、今のような極めて低い水準で保ち続けていこう(金融緩和の継続)としています。そのため、一定の水準のまま、ゆっくりと物価の上昇を見守りながら政策決定がされていくと考えるのが自然でしょう。

このようなことから、2019年度まではほとんど金利は変動しないものと仮定し、物価の上昇が不動産に与える影響について考えていきたいと思います。

マイホームの購入

マンションや土地付一戸建てなどのマイホームを購入する場合、一般的に住宅ローンを組みます。
金融緩和の継続で2019年度までほとんど金利が変わらないと想定した場合、住宅ローンの金利もほとんど変わらないと考えられます。金利が低い分、家計への負担は低く抑えられます。

ただし、都市部では、「東京オリンピック・パラリンピックを含めた再開発」や「外国人による不動産の購入、投資」が増え、先日発表された銀座の路線価がバブル期を超えたというニュースにもあったように、不動産価格に割高感が生じています。

「経済・物価情勢の展望(2017年7月)」では、2019年度に再開発にともなう不動産需要が一巡すると指摘しています。このことも踏まえると、マイホームを購入するタイミングとしては以前よりも高い価格で買うことになる可能性が高いです。アベノミクスが始まったころに購入した人と比べると、その分住宅ローンの借り入れが増え、生涯支出の面で大きな差が出てくることになるでしょう。

2020年以降、政府が予算面で不動産市場をどのように維持していこうとしているのかは不透明な部分があります。しかし長い目で見ると、超高齢化や少子化における人口減少にともない、特に新築住宅市場の規模は縮小していくことが予測されています。

一方、超高齢化社会のもと、既存住宅のリフォームやリノベーションの需要が高まると予測されています。中古住宅市場の整備・流通がされやすくなり、価格の大幅な下落の受け皿になると考えられています。

このようなことから推測すると、特に2020年以降のマイホームの購入は、新築物件と中古物件の選択肢が増え、より買いやすくなるかもしれません。

相続


(画像=写真AC)

土地や建物などの財産を所有している人が亡くなった場合、通常なら相続人に財産が移転します。
相続では、遺言や遺産分割協議を経て財産の移転が図られますが、その際には、相続財産の金銭的な評価が必要になってきます。

すでに所有されていた土地や建物なので、マイホームの購入とは違い、直接、金融緩和の継続による金利の影響はありません。

しかし、評価額の算定に当たり、特に今のような不動産価格が高くなっているような環境のもとでは、以前に比べ評価額も上がっている状況なので、相続税がかかる場合は注意が必要です。
昨今の地方における、相続税対策の賃貸アパート経営ブームは、このような事情に起因しています。

こちらも2020年以降は、どちらかというと価格が下落傾向にあると言えます。相続で移転を受けた不動産については、なるべく早めに売りに出す方が良いかもしれません。

また、相続対策を講じる場合、アパートやマンションの購入費を借入れ、借家人に賃貸していくような方法は、地方を中心に好まれなくなるでしょう。

空き家対策

空き家は、大別すると、「管理されている空き家」と「管理されていない空き家」に分けられます。
前者は、例えば親が亡くなり、相続により土地や建物を引き継ぎ、息子・娘は別の場所に住んでいる。もしくは、たまに里帰りをしたついでに管理しているような実家です。こちらは問題ありません。
後者は、誰も住んでおらず、壁がはがれ落ち、屋根が破損していて、郵便ポストに郵便物がずっと入れっぱなしのような、ほとんど廃墟のような家です。「空家等対策の推進に関する特別措置法(空き家法)」では、「管理されている空き家」を「空家等」、「管理されていない空き家」を「特定空家等」と定義づけています。

空き家の対策は、現在空き家になっている家をどうするのかという「空き家になった後の対策」と、これから空き家になるかもしれないという「空き家になる前の対策」のふたつに分けて考えていきます。

前者の場合、直近の問題であるため解決を急ぐ必要があります。
後者の場合、ある程度管理されている傾向があるため特定空家ほどの緊急性はありません。

空き家の対策には、大きく分けて4つの方法あります。
A.取り壊す
B.売却する
C.リフォームやリノベーションなどを施し、賃貸する
D.建て替える

今回は、日銀の金融緩和の継続が不動産にどのような影響を及ぼすのかがメインテーマなので、「A.取り壊す」以外の3つの項目について考えていきます。

B.「売却する」ですが、相続により引き継いだ実家や、親が介護施設に入所したことで誰も住まなくなった家などの場合、すでに不動産価格に割高感があるので、なるべく早めに売ることを考えた方が良いかもしれません。

ここで注目しておきたい税制は、「被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除の特例」です。
平成28年4月1日から平成31年12月31日までの期間に、相続や遺贈で取得した土地や建物などを、相続の開始があった日から3年目の年の12月31日までに売った場合、譲渡所得から特別控除として3,000万円を差し引くことができるようになっています。地域によっては、これを使うと不動産を譲渡しても非課税になる人が出てくるので、売却に当たっては税理士に相談したうえ検討するようにしましょう。

C.「リフォームやリノベーションなどを施し、賃貸する」ですが、これは地域の実情や将来性によって判断が異なります。

通常、リフォームやリノベーションをした建物は、付加価値が付くので資産価値がある程度回復します。
その元手をどう調達するのか、一戸貸しやシェアハウスなど貸し方をどのようにするのか、借り手をどのように見つけるのか、その後の物件管理をどのようにするのかなど、不動産経営の方法を考えていく必要があるため、地域性や将来性を含め慎重に検討していくようにしましょう。

すでに所有している不動産なので、不動産投資のように多額の借り入れをするケースは少ないと考えられますが、もし金融機関から住宅ローンを借りる場合は注意が必要です。日銀の金融緩和が継続される間はそれほど問題ありませんが、今後何らかの経営状況の変化も考えられます。プチ不動産経営といえども、事前にしっかりとした収支計算のもと事業計画を立てていくようにしましょう。

D.「建て替える」を選んだ場合ですが、一般的には土地や建物を引き継いだ相続人が、住宅ローンを組んで建替えをするケースが想定されます。


(画像=写真AC)

このような場合、土地代はかかりませんが、建物の費用として2,000万円、3,000万円の住宅ローンを組むことが考えられます。
2019年度、予定通り2.0%の物価目標が達成され、金融政策の変更が行われた際は、金利が少し上がっていく可能性があります。もし、実行するならば、なるべく早い方が良いかもしれません。

まとめ

今回は、7月20日に開催された日銀の金融政策決定会合のレポート「経済・物価情勢の展望(2017年7月)」をもとに、金利と物価の関係を紐解きながら不動産にどのような影響があるのかを見てきました。
各国の中央銀行が行う金融政策によって、私たちの暮らしやお金に関する行動も変わってきます。
これから日本がどこに向かって動いていこうとしているのかをしっかりと見極め、状況に合わせた対応をしていくうえでの参考にしていただければ幸いです。

次回は、2.0%の物価上昇が、不動産投資市場に与える影響について言及します

 
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