前回記事「2.0%物価上昇はまた先送り!?不動産業界に影響はあるのか

日銀が発表した「展望レポート」を元に、不動産業界が今後どうなるのかをFP OFFICE 海援隊 重定賢治代表に予測してもらった。今回は、物価が2.0%上昇した場合、「不動産投資」市場にどのような影響を与えるのかについて言及してもらった。(リビンマガジンBiz編集部)


投資用マンション (画像=写真AC)

リーマンショック後間もなくして、日米で異次元の金融緩和が始まりました。
その後、ヨーロッパも追随し、世界中で大量の投資マネーが優良な投資先を求め流れはじめました。

最も目立つ投資先は株式市場です。アメリカでは、株価が史上最高値を更新し続け、日本でもアベノミクスによる資産効果で一定の評価があります。その陰で、世界の不動産市場にも大量のマネーが流れ続けています。目立つ報道はあまり多くなかったので実感が沸かないかもしれません。

しかし、タワーマンション人気や東京、大阪などの主要都市での再開発による駅ビルのリニューアルオープンといったニュースは記憶に新しいことでしょう。


今後REITは儲かるのか?

ここで「東証REIT指数(10年・月足 / 2017年7月21日時点)」の動きを見てみます。
東証REIT指数は、東京証券取引所に上場している不動産投信(J-REIT)全銘柄を対象とした時価総額加重型指数です。

住宅やオフィス、商業・物流施設などに投資されているファンドが、東証REIT指数の構成銘柄になっています。この指数を見ると、投資マネーが日本の不動産市場にどのように流れているのか傾向がつかめます。おおよそ日経平均株価指数の動きに連動しています。2016年にアベノミクス開始以来、最高値を付けました。

その後は、現在に至るまで下降トレンドを描いていますが、これまでの世界的な金融緩和により、いかに日本の不動産市場にたくさんのお金が流れ込んでいたのかがわかります。

欧米の金融政策が徐々に引き締めに向かう中、日本ではもうしばらく金融緩和を継続する状況では、マーケットの急激な変動は見られないと思います。

しかし、欧米の金融引締の内容(資産の圧縮など)によっては、マーケットが敏感に反応し、トレンド転換が起こる可能性があります。

東証REIT指数を見ただけでも、不動産価格に割高感があるのは一目瞭然です。チャート理論上これ以降は、仮に価格が上がっても2016年に付けた最高値を少し突き抜けるぐらいの動きで終わる気配があります。

このように考えると、REITでの資産運用は、すでに売るタイミングに入っていると言えます。

むしろここから買い上がっても得られる利益はそれほど多くないかもしれません。トレンド転換後に、主な投資対象となりやすい国債や金などに資金を振り分け、リスク回避を図ることが賢明と言えるかもしれません。

投資用の不動産は売却するべき?


(画像=写真AC)

また、昨今の不動産投資と言えば、分譲マンションの区分所有投資です。
不動産投資業者を通じ、マンションの一室を購入・転貸し、長期にわたり家賃収入を得るというオーソドックスな手法です。

一般的には、資産家が行うイメージがあると思いますが、大企業の会社員や公務員も始めるようになり、サラリーマン大家と呼ばれ注目されています。

本来ならば不動産投資は、キャッシュで始めるのが最大限に利回りを得るコツです。しかし多くの場合、住宅ローンを組んで物件を購入します。賃料を得ながら住宅ローンの残債をなるべく早めに返済していき、完済後、ようやくトータルで利益が出てくる仕組みです。

日銀は、物価の達成目標を年率2.0%としています。
この間、金融緩和が継続され、金利は今とほとんど変わらず推移していくでしょう。
今から不動産投資を始める場合、先ほどから述べているように、不動産市場には割高感が生じています。
このため、以前と比べ購入費用が増え、トータルの利回りが低下していくことが考えられます。

ただし、日本の場合、2019年10月に消費税の増税が予定されています。
日銀の見通しでは、消費税率を引き上げた場合でも2.0%の物価上昇は達成可能としています。しかし、結局は消費マインドの問題なので、国民が抱えている「老後の生活に対する不安」が改善されにくい状況では、消費者の財布の紐も緩みにくく、消費の先行きは依然不透明です。

そこで、消費税率の据え置き、または、さらなる財政出動の実施が検討されることが考えられます。しかし、政治情勢が安定するかどうかもさることながら、このふたつの政策を実施した場合、デフレからの脱却という出口戦略がより現実味を帯びてくるでしょう。

株式市場では、金利の上昇が企業収益を圧迫すると連想され、資金が引き上げられやすくなります。不動産市場でも、金利の上昇により投資効率が悪化すると連想され、他の投資先に資金が振り向けられやすくなります。

資産市場の動きと実体経済の動きにはタイムラグが生じます。
以前の金融恐慌の引き金を引いたサブプライム・ショックのとき、多くの人が「実体経済が良くなっている」とは感じていませんでした。今回も同じようになるかもしれません。

国内の景気を見ると、賃金を上げる、消費を促す、企業の売上を増やすという政策を行っている最中です。今の状況はむしろ、資産市場の上昇ペースが前回に比べ異様に速くなっていることから、警戒感を持ちながら見守るという段階です。

このように推論していくと、不動産投資は、これから始めるというものではなく、むしろ、すでに始めている人は売却して資金を引き揚げる方が得策と言えるでしょう。

特に、住宅ローンの完済後、退職のタイミングで売りに出そうと考えている人は、余程の良い物件(超高齢化社会においても継続して入居者数が見込まれる地域などの物件)でない限り、予定していた利回りを期待することは難しくなる可能性があります。

まとめ

不動産投資は、どの地域の物件を所有するのかでほぼ結果が決まります。
戦後、これまで経験したことのない超高齢化・少子化社会の中で、実際に人口の移動がどのようになるのか予測するのは容易なことではありません。

しかし、不動産投資においては、ミクロ面では人口移動がポイントであり、また、マクロ面では不動産マネーの潮流を読み込むことが重要になってきます。

なるべくなら不動産投資だけに偏らず、他の金融資産をポートフォリオに組み入れ、長期の分散投資を心掛けるようにしましょう。

 
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