新宿・歌舞伎町―アジア最大の歓楽街には欲望と人が入り乱れる。
夜の街で働く女性の住宅事情を歌舞伎町の不動産仲介会社の社員に聞いた。
水商売を嫌がる家主は多い
秋になると歌舞伎町に新顔が増える。
「夏の間、地元で遊んでから上京してくる女の子が多いんです」
彼女たちは歌舞伎町に数えきれないほどあるキャバクラで働く、いわゆるキャバ嬢だ。
歌舞伎町で不動産仲介をするAさんが、彼女たちの部屋探しを受け持つようになって10年以上になる。新宿区に拠点をおく2つの不動産会社で働いた経験があり、キャバ嬢をはじめ夜の街の住人からの信頼は厚い。取材中にも問い合わせの電話とLINE通知が止まらない。
「店に来る子は『水商売でも部屋を借りられますか?』とやけに低姿勢か、『どうせダメなんだろ?』とオラついて(威嚇して)くる。この2パターンですね」来店早々に威嚇されても困るが、どんな場合でも丁寧に客の話を聞くことを心掛けているという。
「実際に、借りにくいのは本当ですよ」と、キャバ嬢の入居を嫌がる家主は多いという。収入が不安定で、他の入居者と生活時間帯が異なるキャバ嬢はトラブルが多い。といった偏見は根強い。
それでも以前よりは、受け入れる管理会社、家主は増えた。相場よりも高い家賃を支払えるからだ。夜の街でしっかり稼ぐキャバ嬢たちは5-6万円の家賃帯が多い中、10万円以上の物件を探す客も多い。そこに気づいた家主や管理会社は「おいしい客」ととらえていることもある。
ぼったくられるキャバ嬢
それでも一般企業の社員に比べれば、借りられる部屋の選択肢が限られる。その弱みに付け込んで、ぼったくる仲介店もある。
Aさんによると、家主に内緒で礼金を増やしたり、一般企業の社員に偽装する名目で追加の料金を請求したりする行為が横行しているという。
「僕はそういうのは、やりたくなかった。だから、地道に受け入れてくれる物件を探しました。どうやって?『水商売のお客様です。入居できますか?』と聞くだけですよ」
こうした管理会社への物件確認で丸1日、問い合わせをしたこともあるという。
地道な努力の結果として、Aさんの評判を聞きつけたキャバ嬢からの問い合わせが増えた。キャバクラ店舗側から依頼されることも多く、今では都内で10店舗以上を運営する経営者から直接依頼がくる。店舗など高額物件の仲介も手掛けるようになり収入は右肩上がりだという「夜の世界は、狭いところで群れたがる人たちの集まりです。信用、評判が一番重要ですよ」
結局、正直にやったほうが得をするという。
最寄駅は意味がない 特殊な条件
実際に、Aさんの接客は実に丁寧だ。キャバ嬢をはじめとして、夜の街特有の条件も知り尽くしている。
例えば、キャバ嬢にとっては最寄駅だけでなく、勤務する店舗からのタクシー代が部屋探しの重要な要素だ。徒歩で帰れるか、もしくはタクシーで1000円以内でなければ、店に払う送迎代金やタクシー代がかさんでしまい、引っ越す羽目になることもしばしばあるという。
こうした「生活指導」を、上京してきたキャバ嬢などにするのもAさんの役割だ。「安い物件を探していて仲介手数料をそんなにもらえなくても、紹介されれば真剣に探しますよ」
それは、キャバ嬢でも風俗嬢でも黒服でも同じだ。
だが、Aさんが絶対に受けない業種もある。
後編に続きます。