東大が発表した女子学生への家賃補助制度に男女差別との指摘が広がっている。
不均衡な男女比の是正が狙いだが、そもそも他大学に比べ裕福な学生が多いといわれ、制度自体に疑問の声もある。
東大の現役学生やOGに話を聞いた。
女子学生比率は全国平均よりはるかに少ない
「ないよりはいいけど…」と、現役学生も戸惑うのは東京大学が先週、突如として発表した女子学生への家賃補助施策だ。
施策は来年4月から入学する女子学生に一定の条件付きで毎月3万円を2年間にわたって支払うもので発表資料によると、「以前から最重要課題として取り組む男女共同参画の推進のため全体の2割程度にとどまる女子学生の比率を高めるための施策」の一つだという。
発表の通り、東大では全体の学生数に占める女子学生の割合が20％弱しかおらず、全国の大学平均の約40％を大きく下回っている。2002年ごろから、女子学生を増やす取り組みを続けているが、これまでのところ効果は乏しい。そこで、ついに現金の支給という、なりふり構わない施策に打って出たわけだ。
一方で、支給対象となるのが実家から通学ができない女子学生だけのため、男子学生への差別だという声が噴出。東大には新制度に否定的な意見が寄せられており、NHKの報道によると50件以上に上るという。また、ダイヤモンド社が運営するダイヤモンド・オンラインでは自身も東大出身の経済評論家・山崎元氏が「アンフェアかつ非効率」と断じるなど波紋が広がっている。
東大には金持ちしかいないイメージ
そもそも月3万円ほどの家賃補助で男女比の不均衡解消につながるか、効果を疑問視する声もある。
東大が2014年におこなった学生への調査をまとめた「学生生活実態調査」では、東大生の恵まれた現実が見える。
報告によると、東大生の54.８％で親の年収額が950万円を超える高所得世帯だという。日本全体では20％程度にとどまる高所得世帯が東大に集中していることで「勉強だけでなく、金がないと東大には行けない」と嘆きの声が上がった。
編集部でインタビューした首都圏以外出身の東大OG2名と現役女子学生の計3人とも、実家は事業経営をしている資産家だった。家賃は９～10万円の賃貸住宅に住んでおり、家賃とは別に仕送りがあり、合計すると毎月20万円近くを支援してもらっていた。8万6700円という都内大学生の平均仕送り額を大きく上回っている（私大教連調査）。
「仕送りの金額をいうとサークルなどで知り合った他校の大学生に引かれました」（北陸地方出身の東大OG）と語るとおり、東大生＝金持ちのイメージは根強い。
それでも今回の施策が経済的理由から東大進学をあきらめていた学生への追い風になるならばいい。ただ、男女比の不均衡解消への取り組み一貫として制度が進むことに違和感が残る。
東大に女子学生が少ないのは経済的事情よりも別の要因が大きいのではないかと考える向きもあるからだ。
東大女子が語る試験より難しい親の説得
インタビューに答えた3名は全員が「東大に行くなんて」と、両親や周囲に猛反対されたという。反対の声をまとめると、「頑張って東大まで行かなくても、地元の国立大学で十分」というもの。「東京の大学まで行くのは遊びたいからか？」といった無理解もあり、経済的支援よりも「東大受験」への説得に労力を使ったという。
東大は試験科目も多く、高校での授業以外に学習塾での受験対策なしでは合格は難しい。受験への親の支援は欠かせず、ここで跳ね返される女子学生も一定数いるのではないかと予想される。
教育機関・東京大学には、こうした男尊女卑の風潮を教育で解消することを大いに期待したいのだが…。
いずれにせよ、「11月に家賃補助を発表されても、いまから東大受験に挑むのは無理でしょう」（東大OB）という難関。新施策の効果について、是非を問うのは再来年以降になるだろう。
東大文学部を卒業したOGが、「むしろ社会人となった今こそ補助が欲しい」とつぶやけば、いまだ就職活動中の4年生女子も声をそろえる「そうですね。私たち（東大文学部を卒業した・する女性）は、世間で思われるほど就職に強くないです」。
本当に変わるべきは、我が国において最高峰の頭脳を持つ才女がこう言わなければならない社会の現状なのは間違いない。
