孤独死や自殺など賃貸住宅などの内部で人が亡くなった、いわゆる事故物件。
もともとは住宅業界内だけで通じる用語だったのだが、専門サイト「大島てる」などの存在でテレビなどでも取り上げられることが増えた。しかし、「幽霊がでる」といった怪談まがいの扱いが多い。しかし悪ふざけとして消費される事故物件が生まれる背景には遺族と大家、リフォーム会社などの苦悩がある。
(これより本文中に衝撃的な画像があります。ご理解いただいたうえで閲覧ください。)
(本文中の物件ではありません)
匿名条件に惨状を語る大家
北関東に賃貸住宅を所有するAオーナーも事故物件を体験した一人だ。都内で会社員をしながら賃貸経営もおこなうサラリーマン大家が、絶対匿名を条件に所有物件に起きた事故の詳細を教えてくれた。
事件は数年前の8月の後半におきた。
Aオーナーは建物工事の打ち合わせのため、リフォーム会社とともに所有物件を訪れた。工事の打ち合わせ中に、何か異臭がするとリフォーム会社の社員が何度も言う。かなり気になるようだが、Aオーナーは全く気が付かなかった。
「雨どいや屋上貯水タンクなどで小動物が死んでいるのかもしれません」とリフォーム会社の社員は言い残して会社に戻っていった。
何度も繰り返し言われたので、Aオーナーが管理会社にも伝えたところ、翌日に管理会社の社員が物件を見てくれることになった。
翌日は都内でいつも通り仕事をしていたが、昼休みを見計らったように管理会社の社員から連絡があった。
「外部からは特に異変はありませんでした」
ほっとしたが、管理会社社員も確かに異臭がするという。万一があるので、全入居者に連絡をとってくれるという。もし連絡が取れなければ、部屋にポスティングをしてから鍵を開けて、室内を確認する。その際、大家の許可が必要とのこと。
なんだか嫌な予感がしたAオーナーはなるべく早く鍵を開けて欲しいといったが、管理会社としても1週間はまたなければいけないらしい。この時点では、旅行や出張などで不在にしただけかもしれないからだ。
「1週間も…」気が重かったが、三日後の木曜日に事態は急変した。
電話口の管理会社の社員から、入居者が室内で亡くなっていたことを知らされた。
1週間待たずに鍵を開けたのは、入居者の保証人から管理会社にも電話が入ったからだ。家族も連絡が取れないとのことで、すぐに管理会社の社員2名で部屋に入り、そこで惨状を目のあたりにしたという。
(本文中の物件ではありません)
火事と間違えた黒い壁
Aオーナーが聞いた管理会社社員の話をもとに、構成する。
ドアをあけ、一瞬の後に強烈なにおいが鼻を突いた。すさまじい臭いに、一瞬だが臭いとは認識できないほどだったという。
部屋に目をやると、「火事でも起こしたのか?」と思うほど、床と壁が真っ黒だった。そして、布団のなかのゴミ袋が視界に入った。その「ゴミ袋」は実は亡くなった入居者の遺体なのだが、損壊が激しく人間だとは気が付かなかいほど変わり果てていた。
そして、火事を疑ったほどのすすけた床と壁は全面を埋め尽くしたハエなどの害虫だったというから、そのひどさが垣間見える。
結局、ハエの駆除や床の張り替えなど「特殊清掃」で200万円近い費用が発生した。亡くなった入居者は60代の男性だった。
さらに隣室の入居者も数か月後に退去してしまった。良い物件を見つけたからと引越し理由を語っていたらしいが、Aオーナーは信じていない。
管理会社との取り決めで元の家賃から3割下げて募集したところ、3週間ほどで驚くほど、あっさり入居が決まった。
「リフォーム前の現場は写真でしか見ていません。(孤独死があったことを)告知して、納得して借りてもらっては、いるんですが…」
その人物はいまも継続して入居中だという。
割り切れない表情のAオーナー。もしかしたら、このことが絶対匿名の理由なのかもしれない。
事故物件管理人の流儀
事故物件に遭遇した賃貸管理会社のBさんにも話を聞いた。
「遺体は見慣れればいいんですが、とにかく耐えられないのは臭いです」と語る。
豚肉でも牛肉でもスーパーで買ってきた1キロの肉でも腐敗するとかなりの臭いがする。成人男性は平均60キロの肉だ。当然、腐敗臭も60倍になると説明する。
「臭いは注意しないと」
先述のように、腐敗が進みやすい夏場などは近隣住民が臭いで異変に気付くこともある。隣室にも知られてしまえば、やはり退去されるリスクも高まるという。その点は注意を払うらしい。
居室内で入居者の遺体を発見した場合、変死なので必ず警察に通報しなければならない。事件性がなければすぐに警察は帰るが、警察が出入りしているのは目につきやすい。そのため、緊急性がなければ、他の入居者に知られないようなるべく人が少ない日中の時間帯に鍵を開けるようにしている。ベテランの「事故物件管理人」の知恵だ。
自殺の中でも首つりの場合は腐敗した体液が、身体を伝って一か所に垂れるため床面から建物構造の内部にまで浸透しやすいという。じんわり浸透した体液が階下の天井から沁みだして、自殺が発覚したこともあるらしい。
こうした事故物件の処理業務だが、最初は新人の仕事としてBさんに押しつけられのだが部下を持った今でも担当している。
「(事故は)年に数回はあります。若い社員は精神的にまいっちゃうので慣れている者が担当したほうがいいんです」
拍子抜けするほどサバサバした表情が印象的だった。
URなどでも割安の特別募集住宅として貸し出すと、すぐに入居が決まるという。
リフォーム会社が招いた2度目の悲劇
いい加減なリフォーム業者に現場の処理を任せたばかりに、さらなる悲劇を呼ぶこともある。内装業のかたわら孤独死現場の特殊清掃をする藤川貴之さん(群馬県)が経験した。
藤川さんは、不動産会社から依頼を受け閑静な住宅地の小さなマンションにある現場に着いた。部屋は2DKで、一人暮らしの女性がロフトで首を吊ったらしかった。発見まで2~3週間がたっており腐敗臭がとれないとのことだった。
藤川さんが呼ばれる数週間前に、大家と遺族が話し合ったうえで、遺族が手配したリフォーム会社によって、汚損した部屋はすでに特殊清掃済みだった。しかし、その時にしっかりと体液を処理せずに床や壁紙を張り替えたため、臭いだけが残ってしまったのだ。
現況では、とても次の入居者を募集できる状態ではなく、しかも中途半端なリフォームで臭いの発生源が分からなくなっていた。
床をはがして、汚損個所を特定したうえで、再度特殊清掃する以外になかった。
藤川さんの会社で、見積もりを提出することになったが、その前に大家と管理会社、そして遺族と以前の施工をしたリフォーム会社で話し合いを持つことになった。
話し合いの場で、以前の施工をしたリフォーム会社は嫌悪感丸出し対応していた。自分の不手際をみとめるどころか、「臭いはとるとは言ったが、完全にとるとは言っていない」と居直る始末だった。
その時、故人の父親が静かに言ったという。
「私は、自分の娘がしでかした事ですので精一杯の誠意を示し、早急に対応しようと思い、そちら(最初のリフォーム会社)の言われたとおりの金額を支払いました。定年で年金暮らしの私にはとても大変な負担でしたが…」手には鞄から取り出した写真が握られていた。若い女性が写っている。亡くなった娘さんの写真だ。
「自分の娘の不始末ですから・・やっとすべてが終わり安息がきたと思いきや・・、解決出来たと思っていた事でまた呼び出されて耐えられない・・」
怒りを抑えて、冷静に対処する遺族の姿に感心した。しかし結局、再度リフォームするため、余計な費用を支払うことになった。しばらくして、遺族がリフォーム会社を訴えたと聞いたが、藤川さんはその後のことは把握していないという。
昨今の事故物件を扱うメディアは、こうした遺族の心情をないがしろにしていないか。訴えかけるエピソードだ。
それにしても、大家や遺族には、レベルの低い特殊清掃しかできないリフォーム会社を見抜くの難しい。
藤川さんは、あくまで主観だと断りを入れたうえで、教えてくれた。
「『天国への旅立ち』など故人への思いをことさら綴ったHPの業者は、信頼度が低いように感じる」という。故人への追悼の気持ちはあれど、「あくまで仕事なので、淡々とやりますよ」というのがプロだと思うからだ。
さまざまな理由から、人は死ぬ。それでも賃貸住宅オーナーは経営を続けていかなければならない。
どんな世界にも誇りをもって仕事をするプロがいる。