2017年08月18日
寺岡 孝

過去最大級の地面師詐欺事件。積水ハウスも騙された手口とは?

寺岡 孝

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大手ハウスメーカーである積水ハウスが、東京の五反田駅近くの土地購入のために63億円を支払ったにもかかわらず、所有権移転登記を受け取ることができないという事態があったと報道された。

いわゆる地面師という詐欺にあった可能性が高いとされている。では、その地面師の実態はどういったものなのだろうか。元ハウスメーカー勤務のアネシスプランニング 寺岡孝代表に聞いた。(スマイスターMagaZine編集部)




事件の現場 (撮影=スマイスターMagaZine編集部)


そもそも地面師とは?

さて、そもそも地面師とはいったいどのようなものなのでしょうか?
広辞苑などには「他人の地所を種にして売買の詐欺をする人」とか「他人の所有地を利用して詐欺を働く者」とあります。
つまり、他人の土地を自分のものと偽り、売買をするように仕向けてその代金を取るという詐欺師であり、不動産取引の古典的な詐欺としては業界的にはよく知られているものです。

こうした地面師の手口としては更地が狙い目で、抵当権や差押登記などがない場合、地主や管理者が遠方にいるケースが狙われやすいとされています。
例えば、土地に建物が建っていてそこに所有者が住んでいれば、すぐに詐欺だと分かってしまうので、そういった土地の状況では起こりにくいようです。

バブル期にはこの地面師による詐欺が横行して社会問題にもなりました。最近になり不動産価格の上昇にともない、またも地面師が暗躍するようになっています。

現在のような土地価格の上昇で優良物件が不足しがちになれば、誰もが良い物件を買いたがるものです。地面師はこれを逆手に取って地主に成りすまし、いかにも「土地売りますよ」といいながら代金だけだまし取ってドロンしちゃうというものです。


所有者からの直接購入でない不動産取引には要注意!
(他人物売買や中間省略と称する取引の注意点)

積水ハウスのHPには、今回の経緯についてこう書かれています。
「本件不動産の購入は、当社の契約相手先が所有者から購入後、直ちに当社へ転売する形式で行いました。」
というように、第三者から転売してもらって買うという流れだったわけです。
(簡単に図で見ると下記のようになります。)



<大まかな不動産取引の流れ>
(第三者は売買契約後に自ら所有者とならずに購入希望者に転売する)

不動産の取引に関して、その土地の所有者自身が契約相手先となるのが本来の姿です。しかし、所有者自身が第三者に売却をし、その第三者がまた別の人に転売するという取引が存在しています。
ただ、所有者自身が見えないためにある意味リスクがある取引です。

不動産業者間での売買では、こうした転売による取引は日常的に行われています。
例えば、バブル期にはこの第三者が何人も登場して転売を繰り返し、その取引の都度売買価格を釣り上げて売りさばいていました。本来の所有者は高値で売ったと思いきや、数回にわたる転売劇を経て、もとの売買価格の2倍近い金額で売買されたという事例はざらにありました。

こうした転売が絡む不動産取引には注意が必要です。
宅地建物取引業法ではいわゆる不動産業者(宅建業者)は「他人物売買」を制限、禁止しています。
簡単に図で示すと以下のようになりますが、この場合、最終的な買主は一般のエンドユーザーの場合に限定されています。


<不動産業者が売主となり他人の所有物件を買主に売却する場合>


一般のエンドユーザーは不動産取引に関しては「素人」ですから、エンドユーザーを保護する観点から、不動産業者が売主になる場合、他人の所有する土地や建物の売買契約をしてはいけないということになります。ただし、例外として図のように物件所有者との間に売買契約等があれば、他人の所有する土地や建物の売買契約をエンドユーザーと結ぶことは認められています。

こうした「他人物売買」の問題点は、買主が契約した時点では物件は不動産業者の所有物ではないということです。不動産業者はただ物件所有者と契約書を取り交わしただけで、実際には物件所有者から所有権の移転登記はなされていません。

この状態のままで、売主である不動産業者は物件を買主に売却することは可能ですが、登記上は不動産業者からの所有権移転ではなく、物件所有者からの所有権移転となります。
つまり、不動産業者は所有権移転の登記をしないまま、直接物件所有者から買主に所有権移転をするという流れになります。
このような取引の流れはよく「中間省略」の取引と言われています。

不動産業者にしてみれば、いったん自分の所有になると不動産取得税や登記費用を払うことになり、転売して儲けようと思っても余計なコストがかかってしまいます。したがって、「中間省略」の取引を進んでしたがるものです。

また、最終的に物件所有者の気が変わって「やっぱり売らないよ」となれば、この話は破たんし相当揉めることが想像できます。

このように、他人物売買や中間省略の取引では相当なリスクが存在するといえるでしょう。

ところが、買主も不動産業者の場合にはこうした制限はありません。
つまり、プロ同志の取引にはこうした制限は必要ないという法律が背景にあります。
プロ同士の取引であれば、事前にきちんと調査して売買契約に臨むだろう、という解釈になるわけです。

今回、積水ハウスが騙されたケースではいわゆる他人物売買の取引形態をとっており、その売買には相当な注意や厳格な権原の調査は不可欠なものです。
おそらく、積水ハウス側もそうした調査等は行ったのでしょう。しかし、地面師の方が一枚も二枚も周到で上手だったのではないでしょうか。



積水ハウス本社がある大阪・スカイビル (画像=写真AC)


地面師が暗躍する事例

今回の事件が発覚してから、過去の地面師詐欺は各マスコミでも報道されていますが、いくつかの事例を上げてみましょう。


2013年、港区のホテル用地で地面師詐欺によりアパホテルが12億円の被害。
2011年、杉並区の駐車場を横浜市内の不動産業者に売りつけて2億5,000万円を詐取。
2012年、港区の不動産業者が品川区の土地売買をめぐって3億6,000万円の被害。

いずれの事例も用意周到なもので、書類関係はすべて偽造、司法書士や弁護士と称する登場人物もすべてグルという例もあります。

不動産の取引では、売買代金をすべて支払った後に買主に所有権移転がなされます。しかし、代金全額の支払後の移転登記のために申請内容が正しいかは直ぐには判別できず、数日後に売主は正しい所有者でないと法務局から呼び出しが来るというパターンです。

今回の積水ハウスの事案も同様で、売買契約は本年の4月24日になされ、決済日は同年の6月1日になっていました。この決済日に決済金の数十億円を支払った後、所有権移転登記申請が却下されたのは決済日から8日後の6月9日とのこと。当然、契約の当事者はこれ以降音信不通で、ようやく騙されたと気づく格好になるわけです。

契約から決済までの期間が短く、超ハイスピードで業務を処理していかないと間に合わない流れだったようです。決済までが短時間なのは、地面師詐欺の特徴の1つでもあります。

積水ハウス側もまさか騙されるとは思ってもみなかったでしょう。
それだけ、地面師は役割分担をしながら絶対にわからないように、あらゆる手を尽くしていると言えます。

では、こうした地面師詐欺にあわないような注意点はあるのでしょうか?


地面師詐欺を防ぐための注意点


実際には地面師詐欺を防ぐのは難しいものです。

権利書や印鑑証明書、実印、加えて運転免許証などの身分証明書が偽造されて、それを買主が見抜けないと詐欺は防げないのが現状です。
ことさら、今は印刷技術などがかなり発達しています。今回、積水ハウスの事案で身分証明書に偽造パスポートが使われましたが、偽物かどうかは見破りにくいもののようです。

したがって、取引の際には例えば、権利書関係は法務局、身分証明書などは警察署や各行政庁にといったように、各証明書関係などを所轄の管理者に事前に確認しておくべきでしょう。
もちろん、こうした証明書などは盗難や紛失をしないように心がける必要もあります。

また、具体的な取引が進展しそうな場合には、契約前に売主に事前にお会いしたいなどと言いながら、真の所有者かを確かめることも必要でしょう。加えて、購入予定地の近隣を巡ってみて該当する土地の所有者に関するヒアリングも行っておくべきです。

いくら都会といえども、古くから居住している人はいますから、そういった家を訪問して近隣の情報を得ることは重要です。ただ、用意周到な地面師は相当以前から近隣にも顔を出していたという事案もありますので、そのあたりも十分考慮して対応すべきです。

地面師が狙うモノの傾向としては、「誰しもが欲しがるような物件であり、やたら契約や決済を急がせたりする」といったパターンが通例のようです。
したがって、「契約をさかされる」とか「なんとなく不自然な話が多い」、「早く決済して欲しい」というような違和感を覚えたならば、早急な契約や決済をしないこともポイントでしょう。


地面師が増える背景


こうした地面師が増える要因の背景にはマイナス金利による金融機関の不動産関係の融資金の増加にともなう不動産取引の増加があります。


バブル期同様に地価が高騰し、マンション販売会社やホテル業界などでは、まとまった土地の購入を日々検討しています。当然ながら、取引自体も多くなり、数多くの取引の中であれば地面師詐欺も発覚しにくい環境になっています。

また、昨今の空き家問題でも触れられていますが、所有者の生存が不明や、遠方に居住しているなどとなれば、地面師にとっては格好の詐欺対象となるわけです。しかも、抵当権などの権利が付着していないものであれば、条件はそろってくるので詐欺を働きやすくなります。

積水ハウスの事案のように、山手線の五反田駅から徒歩5分程度のまとまった土地で、建物は見るからにだれも住んでいない、しかも抵当権もないとなれば詐欺の対象物件になります。


さまざまな角度で地面師について見てきましたが、皆さんはどう感じたでしょうか?
一般のエンドユーザーではなかなか出くわすことがないようにも思われますが、不動産を購入する際には充分な注意を払って騙されないようにすることですね。
もし、自分らだけでは不安だと思われるようでしたら、専門家に事前に相談するなどの予防が必要でしょう。

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