毎週木曜日配信 さんきゅう倉田「そのニュースに課税します!」
不動産や住宅と深い関係がある税金。
よしもとクリエイティブ・エージェンシー所属、元国税局職員のさんきゅう倉田さんが、税金に係わるニュースについて解説します。
今回は、以前紹介した映画「マルサの女」の脱税解説の続きです。(リビンマガジンBiz編集部)
前回記事:
映画『マルサの女』の脱税方法は30年経った今でも…
元 国税局職員さんきゅう倉田です。
遠足のために300円以内のおやつを考えるとき、バナナがおやつに入るかより、300円は税込みか税抜きかが気になります。
伊丹十三監督の映画『マルサの女』には、脱税を行う納税者が数名登場します。今回は、その中から、パチンコ店を経営する法人の税務調査について解説します。
まず、調査の前日、主人公・板倉がパチンコ店のトイレで一万円札5枚に赤いペンで印をつけるところから始まります。印をつけ、写真を取り、パチンコ店の両替機に入れて、崩したお金でパチンコをします。板倉が大当たりを出して大喜びしたところでシーンは終わりです。これは内観調査といって、実地調査の前に会社や店の状況を確認しています。そこで得た情報を実地調査に活かすのです。
パチンコ店 (画像=写真AC)
翌日、パチンコ店に臨場します。調査先のパチンコ店の社長は伊東四朗さんが演じていました。板倉は帳簿を見ながら、法人の取引について確認します。
板倉:決算書に載っている銀行以外に別の取引銀行はありませんか
としつこく尋ねます。
社長:そんなものありませんよ
と答える社長。しかし、板倉は机の上にある信用金庫名の入ったティッシュ箱とマッチを見逃しませんでした。
板倉:すぐバレるようなウソはためにならないのよ、社長
と詰め寄ると、信用金庫に口座を開いていると、白状させることができました。
このように、複数の銀行口座を持ち、その一部のみを申告し、残りを除外する方法は、容易に行われる初級の脱税方法です。また、板倉のように、社長の身の回りの物を注意深く観察し、不正発見の端緒とする方法も一般的です。伊東さん演じる社長はしらばっくれるにしては、片付けもしておらず、かなり甘いといえます。
板倉:(信用金庫に入金している売上に関する)帳簿を見せてください
と要求すると、社長は
社長:それがね、帳簿つけてねーんですよ
と記帳を怠っていると主張しました。
板倉:何も見せなければ手を付けられないと思ってるんでしたら大間違いですよ
この板倉の発言は、「推計課税」ができることを示唆しています。「推計課税」とは、税務署や国税局が調査対象者の財産の状況や債務の増減、収支状況、生産量などの間接的な資料から所得を認定し、課税することができるというものです。
そこで板倉は、前日の売上を確認します。
前日の売上は夜間金庫に入れたという社長に対し、社長の私物のバッグを確認しようとする板倉。
店長:私物だから
店長:個人的なものだから
と社長は抵抗しますが、税理士の指導もあり、バッグを検めることに。中からは、封筒に入った30万円ほどの現金が出てきました。社長は、家から持ってきた自分の小遣いであると主張しますが、1万円札に端には、昨日板倉がつけた赤い印が…。
社長は毎日、売上の一部を除外していたのです。しかし、帳簿はありませんので、推計で追徴課税されることになりました。このように、税務調査の前では、帳簿を破棄してもあまり意味がありません。
国税局と松居一代は証拠がなくても行動できるのです…。