原油価格マイナス取引って、どういうことなのか?

「日経新聞くらい読めよ」社会人なら誰もが一度は言われたセリフです。そりゃ、客先で経済ニュースを語れるとかっこいいですもんね。でも、「だって、みんな読んでないしな…」と、何となく済ませている人も多いのではないでしょうか。それでは、心許ないので最低限に知っておいて欲しい経済ニュースを、経済誌の現役記者・編集者がこれ以上ないくらいにわかりやすく解説します。新型コロナ問題で世界経済も異常事態が発生しています。経済の肝ともいえる原油の価格が、タダ同然に!いや!マイナスになりました。どういうこと?(リビンマガジンBiz編集部)

画像=PIXABAY

みなさん、日経新聞読んでますか。新型コロナで暇な時くらい読んで欲しいものですが、新聞なんか読む気がしないという人の気持ちもわかります。とはいえ、そんな中でも、世界経済は大きく動いているんです。今回は、歴史的な一時大事である「原油価格マイナス取引」について勉強してみましょう。

4月20日、米NY商業取引所(NYMEX、NYの商品先物市場)で国際的な原油取引の指標として知られるWTI原油先物価格が1バレル=マイナス37.63ドル(前週末比同55.9ドル安)となり、史上初めてマイナスに突入しました(その後、WTI先物の価格は同20ドル台まで戻っています)。

WTI原油先物は2020年初の1バレル=60ドルくらいから下がり続け、特に新型コロナウイルスの感染拡大の影響が明白になった3月以降に下げ幅を拡大し、4月に入ると同20ドルを下回っていました。20ドル割れは2002年以来18年ぶり。この時点で歴史的な原油安でした。

原油安の最大の要因は、新型コロナの感染が広がり、ヒトやモノの移動が世界的にストップしたためです。航空機が次々と欠航になっていることは、皆さんも報道などで知っていますよね。輸送や移動の需要がなければ、燃料の使用量も減ります。こうした需要の減少が原油価格が安くなっている原因です。

とはいえ、価格がマイナスってのはよくわかりませんよね。もう少し詳しく見ていきましょう。

まず、基本のおさらいから。原油価格の国際的な指標は3つあります。1つは今話題のWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)原油先物で、北米で取引される原油価格の指標です。アメリカは原油の世界的な消費地であるため取引量そのものが多く、また先物取引の金融市場として存在感が大きいこともあいまって、世界の原油価格に影響力を持つとされています。

ブレント原油(北海ブレント原油)は欧州の取引価格です。イギリスと欧州大陸に挟まれた北海にある複数の油田で取れる原油が対象です。中東産原油の価格に影響を与えると言われていますが、近年は北海原油の取引量自体が少なくなっています。

そして世界的な原油の産地である中東の価格を反映しているのがドバイ原油です。ドバイ原油とオマーン原油のスポット価格の平均値から求めます。

さて、WTI原油先物は、将来のある時点で受け渡しする原油の量と価格をあらかじめ決めておく先物取引です。取引した人は、決められた期日が来たら、米オクラホマ州クッシングで原油の現物を受け取ります。

しかし今は、新型コロナで需要が縮小し続けているので、原油を引き取っても、在庫をさばくことができません。原油は貯蔵タンクやタンカーなどで保管しますが、売れないために満タン状態。クッシングの貯蔵庫もいっぱいになる寸前でした。

すでに少し前から、原油を精製して作る石油製品は買い手がつかないため在庫が山積みになっていて、「早晩、お金を払ってでも石油製品を持って行ってくれという状態になる」とアメリカの原油市場に詳しい専門家は指摘していました。原油先物価格がマイナスになっているということは、売り手がお金を払ってでも、誰かに原油を引き渡したいということです。専門家が指摘していたことが、まさに現実になりました。

本来、原油先物取引は、原油価格の変動に伴うリスクを軽減するために生まれた商品です。しかし実際には、金融商品として投資する投資家もたくさんいます。値上がり・値下がりによって儲けを出そうとする投機筋の投資家は、もともと現物の原油は必要ありません。だから、クッシングの貯蔵施設が満タンになりそうなこと人びっくりして、「お金を払ってでも誰かに買ってもらう」という売りが一気に拡大しました。

原油に限らず、ガスなどのエネルギー資源、金やプラチナなどの金属資源、そして小麦などの穀物などコモディティは近年、世界の投資マネーが流れ込み投機の対象となってきました。短期的な値動きで儲けようとする投機筋の投資家が増えたことで、本来の需要と供給からはかけ離れた値動きをするようになり、そして本当にそのコモディティが必要な人たちは価格変動のリスクにさらされるようになっています。

原油価格は現在、たしかに需要が急減しています。産油国同士の対立のため、供給だけ増えているという困った問題も同時進行中です。しかし、一時的とはいえ、マイナス圏まで急落するのは明らかに行き過ぎです。社会を支えるインフラのような役割をするコモディティが、投資マネーのおもちゃになっていることのリスクを、今一度、よく考える必要があります。

 
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