日本のアパレルがピンチに陥っている理由


「日経新聞くらい読めよ」社会人なら誰もが一度は言われたセリフです。そりゃ、客先で経済ニュースを語れるとかっこいいですもんね。でも、「だって、みんな読んでないしな…」と、何となく済ませている人も多いのではないでしょうか。それでは、心許ないので最低限に知っておいて欲しい経済ニュースを、経済誌の現役記者・編集者がこれ以上ないくらいにわかりやすく解説します。読者の皆様はレナウンをご存じですか?最近、経営不振から民事再生を申請したんです。この会社って、かつては凄いピカピカの会社だったんです。日本のアパレル産業について、学びましょう。 (リビンマガジンBiz編集部)

画像=PIXABAY

皆さんこんにちは。体調はどうですか。リモートワークでも日経新聞、読んでいますか。緊急事態宣言は解除されましたが、日常に戻るには時間がかかりそうです。

そんな中、話題になったのが東証一部上場のアパレル大手、レナウンの経営破綻です。5月15日に東京地裁に民事再生法の適用を申請しました。新型コロナウイルスの感染拡大以降に破綻した初の上場企業であり、また知名度の高い老舗アパレル企業の倒産ということでニュースでも大きく取り上げられました。

アパレルといえば、「ユニクロ」のファーストリテイリングが世界的に成功していますが、その陰で、老舗のアパレルは大苦戦を強いられています。今回、コロナによってレナウンの破綻があぶり出されたわけですが、ヤバいのはレナウンだけではありません。

今年4月には、「23区」などのブランドを展開するオンワードが700店を閉店すると発表して衝撃が走ったばかり。2015年6月にイギリスの高級ブランド「バーバリー」の日本ライセンスを失ってから低迷が続く三陽商会も、4期連続の最終赤字です。

アパレル企業は、気温の変化も売り上げに影響を及ぼします。暖冬だった昨年から今年にかけては、冬物衣料の売れ行きが不振で、もともと業績は厳しい状態でした。そこに新型コロナの影響が直撃した格好です。

しかし、大手の不振は、気候などの一時的な話よりもより、根本的なところに問題があるようです。アパレル業界に今、何が起きているのでしょうか。

まず、倒産したレナウンについておさらいしましょう。レナウンは1902(明治3)年で、メリヤス(ニット類)を中品とした繊維製品で成長し、1960年代には「レナウン娘」の広告で一世を風靡(ふうび)しました。近年は高級紳士服の「ダーバン」、トレンチコートで有名なイギリスのブランド「アクアスキュータム」など30超のブランドをを展開していました。

レナウンのこの30年間は、経営不振の歴史でもありました。レナウンは1990年にアクアスキュータムを約200億円で買収しましたが、その頃から赤字を計上する年が増えていきます。2000年代に入るとカレイド・ホールディングスをはじめ投資ファンドがスポンサー企業になりましたが、立て直しは進まず、現在は、2010年に出資した繊維大手の中国・山東如意科技集団がレナウンの親会社になっています。

老舗ブランドが低迷する理由は、たくさん考えられますが、わかりやすいところでは、販売ルートを時代に合わせることができていない点が挙げられるでしょう。

国内アパレルブランドの主たる売り場は、百貨店でした。レナウンは今も販売の55%が百貨店ルートです。しかし、その百貨店の売上高の減少が止まりません。デフレの時代が長く続き、また若者世代の消費に対する価値観が変化したことで、百貨店ブランドは急速に人気を失っています。

次の「売り場」となるはずのネット通販への移行も遅れています。レナウンの販売全体に占めるネット通販の比率はわずか3.2%です。

同じく5月に破産したアメリカのカジュアル衣料大手J.Crewも、eコマース(電子商取引)への対応の遅れが売り上げ不振につながったとみられています。

世界では今、米アマゾンなどeコマース大手がオリジナルブランドを立ち上げてネット上での販売に力を入れ、売り上げを伸ばしてきています。日本ではアマゾンの衣料販売はあまりパッとしませんが、アメリカではかなりの存在感を発揮しています。ネット通販とは遠い位置にありそうなパリコレも、ファッションショーとeコマースを連動させる取り組みをしています。

低価格帯からラグジュアリーブランドまで、「何を売るか」だけではなく「どう売るか」もまた、問われる時代です。ずいぶん前からこういう時代が来るのはわかっていたはずなのに、日本のアパレル大手は既存の百貨店や直営店から軸足を移すことができませんでした。これって、新聞社も同じだな……とメディアの人間としては思わずにいられません。

 
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