高須クリニックの高須院長が大激怒 リコール署名偽造事件を解説

「日経新聞くらい読めよ」社会人なら誰もが一度は言われたセリフです。そりゃ、客先で経済ニュースを語れるとかっこいいですもんね。でも、「だって、みんな読んでないしな…」と、何となく済ませている人も多いのではないでしょうか。それでは、心許ないので最低限に知っておいて欲しい経済ニュースを、経済誌の現役記者・編集者がこれ以上ないくらいにわかりやすく解説します。今回は愛知県知事リコール運動から大量署名偽造事件へと発展しているあの事件について考えましょう。 (リビンマガジンBiz編集部)


画像=Pixabay

故人の遺志も反映!?霊界通信化したリコール運動

日経新聞を読んでいない君たちでも、高須クリニックの高須克弥院長はご存知ですよね。「Yes! 高須クリニック」の高須院長です。その高須院長が愛知県の大村秀章知事のリコール(解職請求)問題で揺れています。なんでもリコールで不正があり、逮捕者がでるかもしれない……なんて話に発展していますが、いったい何が起きたのでしょうか。

問題はこうです。高須院長らが呼びかけ人となって、愛知県の大村知事のリコールを求める運動を展開し、2020年11月に高須院長が「体調の悪化」を理由に署名活動を休止するまでに集めた約43万5000筆を愛知県選挙管理委員会に提出しました。この提出された署名の中に、偽造が疑われる不正な書名が多数含まれており、署名の8割が無効とされました。同じ筆跡の署名が複数あったり、すでに亡くなっている人の署名(8000人も!)があったり、本人が署名した覚えがないものがあったりと、かなり杜撰(ずさん)な偽造が行われたと見られ、県選管や名古屋市は地方自治法違反容疑で刑事告発し、愛知県警が捜査を進めています。

そんな中、佐賀市内で多くのアルバイトが集められ、大量の偽造署名を書き写さられていたことが報道されました。時期は昨年10月下旬で、わざわざ佐賀県青年会館の会議室を借り上げ、男女約60名が大量の名簿を書き写したそうで、時給900円(交通費500円)は佐賀市内の事務アルバイトにしては高額の条件だったと報じられています。こうした作業は数日間にわたって行われたため、数百万円以上の費用がかかっているのは明白です。実に延べ1000人以上が署名アルバイトとして参加したとも見られており、市民運動とは大きくかけ離れた実態に驚きの声があがりました。

この不正について、リコール運動を展開した高須院長や、活動を支援した名古屋市の河村たかし市長の関与が疑われています。本人たちは関与を否定、むしろ被害者だと発言する関係者もいます。

そもそもリコールって何ダ!?

世の中の注目を集め、ツイッターなどでは高須院長を支持する声も多かったリコール運動で、なぜ不正が起きたのか。まずはリコールってそもそも何なのかから確認してみましょう。

リコールというのは、単に市民の声を届けるための手段ではなく、有権者の署名を集めて知事や地方議員をやめさせるための制度です。地方自治法という法律にルールが定められています。決められた期間内に署名を集め、選挙管理委員会に提出します。必要な数の署名が集まったと認められたら、住民投票を行い、過半数が同意すれば、やめさせることができます。知事の場合、必要な署名の数は、有権者の3分の1以上です。

今回の愛知県知事のリコール運動では、2020年10月25日が期限でした。結果的に、愛知県選挙管理委員会に提出された署名は約43万5000筆で、リコール請求に必要な約86万筆には遠く及びませんでした。

偽造署名が多数みつかった不正問題について、高須院長は会見で関与を否定、リコール運動の事務局長をつとめた田中孝博・元愛知県議員も「事務局は何の関係もない」としました。署名の提出期限が迫る時期になっても署名の数が足りず、焦って不正に署名を水増しする行為を行ったとみられていますが、本人たちは否定しています。では誰が不正を指示して行わせたのか。それはまだ明らかになっていません。

さて、そもそもなぜ、高須院長らはリコールを求めたのか。活動資金を集めるためのクラウドファンディングのページに、その理由が書いてあります。表現などそのままの形でお伝えしますと、下記の4点です。

1、天皇侮辱動画を隠して出品(昭和天皇写真をバーナーで焼いて踏みつけ)

2、日本兵士侮辱(日本軍兵士の死をまぬけな日本人の墓と表現)

3、慰安婦像(現在、韓国でももめている)

4、愛知県コロナ感染者495名情報ろうえい

最も炎上したのは、1の件でしょう。覚えている人も多いと思います。2019年に開催された「あいちトリエンナーレ2019」の企画展「表現の不自由展・その後」をめぐる騒動です。元慰安婦を象徴する少女像や、昭和天皇の肖像を燃やすような動画が展示されていたことで、多くの批判を集め、県には1万件を超える市民の「声」が寄せられ、企画展は開催からわずか3日で中止に追い込まれました。その過程の中で、河村市長は「表現の不自由展・その後」を視察し、「平和の少女像」の展示中止と撤去を大村知事に求めています。そしてこの問題をきっかけに、大村知事のリコール運動へと発展していったわけです。

高須院長はメディアへの出演や自身のツイッターなどを通じて、時に日本を憂い、時に励ます発言をすることでも注目を集めています。今回のリコール運動も、本人なりの愛国心から始まったものと思われ、表現や芸術の自由との兼ね合いはあれども、税金の使い方についての疑義である以上はリコール運動自体に問題はありません。高須院長は2018年9月に「全身がん」を公表し、今年2月にはがんが再発したことも明かしています。これからは体調に気をつけてお過ごしいただきたいものの、偽造署名についての真相究明にも影響力を発揮して欲しいところでもあります。

 
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