アパート経営・マンション経営における立ち退き交渉のポイント

収益をあげてきたアパート・マンションも、建ててから30年、40年と経てば、老朽化が目立ってきます。

借入金の返済が終わっていれば、空室が目立つようになってもマイナスにはなりづらいですが、新耐震基準の施行や今後も発生するであろう震災へのリスク、周辺に建ち始めた新築物件との比較で、ますます需要が低下することは目に見えています。

そうなると、考えなければいけないのは、耐震や新築に見劣りしないため(あるいは勝つため)の補強修繕やリフォーム、リノベーション、そして建て替えです。

建て替えや、フルリフォーム、スケルトンリフォームと呼ばれる基礎や柱以外は全て新しくなるリフォームの場合、必須となるのが入居者に退居していただくということ。
つまり『「立ち退き」です。

言葉の響きからしても、厄介な印象を受けますが、その通り、問題が発生しやすいものです。
今回は立ち退き交渉のポイントについて考えます。

立ち退き交渉が必要な状況とは

上述の通り、立ち退きが必要となるのは、主に物件の老朽化などによる建て替え時です。
その他に、賃貸事業をやめて土地を売却する、その土地に自宅を建てるなどの場合も、入居者が存在する限りは交渉が発生します。

借地借家法28条は、「正当の事由があると認められる場合」でなければ、入居者に退居を求めることができないとしています。
この「正当の事由」は、長期にわたる家賃滞納や、建物の老朽化が該当します。

ですが、老朽化対策が修繕程度で済む場合や、耐震性を理由にした場合は認められなかった裁判例もあり、このことから「建物の状態に入居者や周辺への危険・損害が懸念されるほどの理由がないと、入居者を退居させる理由にはならない」という捉え方ができます。

つまり、「少し古くなってきたから、建て替えで収益を上げたい」「自分の住まいにしたい」というのは、オーナーの都合であって入居者には関係ないため、法的な退居は認められず、入居者が納得できる内容の条件交渉をする他はないのです。

結局のところ、どんな理由があるにせよ、退居していただく以上は、立ち退き交渉が発生することになりますね。

立ち退きの正当事由として認められるには」参照

立ち退き交渉で起こり得るトラブルとは

借地借家法により、オーナー側から契約解除を申し出る場合は6か月前にとされていますが、実際には1年程前から話を持ちかけることが多いようです。
それだけの余裕をもってしても発生するのが、「立ち退きの拒否」や迷惑料などの「支払いに関する金額調整」です。

転居先が見つからないために、入居者が立ち退き拒否をする場合もあれば、転居にかかる費用に関して、ここぞとばかりに過剰な請求をする入居者もいます。
「転居先ではこの家電を置く場所が狭いから、新しいのを買って」などは序の口だと言う話もあるほどです。

また、家賃滞納者の場合は、転居をするだけの費用を捻出できない可能性が高く、立ち退き交渉が長期化することが多いようです。

もしかすると、「法にのっとった形で手続きをしているのに」と思われるかもしれません。
中には、「部屋を貸してやってるのに」と言う方もいるでしょう。

ですが、オーナーにとって、入居者は部屋を貸してお金をいただいているお客様であり、入居者にとって、その部屋はお金を出して得ている「生活の場」です。
その「生活の場」を、お金をもらっている立場のオーナーが、自分の都合で簡単に奪い取ることができないのは、当然と言えば当然なのです。

もう少し法的な言い方をすると、入居者の得た居住権は、借地借家法により強く保護されています。
入居者が賃料を正しく払うという義務を果たしている以上、居住権は存続し、強制的な退居は不可能なのです。

立ち退き交渉には、「何かしらのトラブルは発生する」という意識で臨んだ方が正解でしょう。

トラブルを避けるための立ち退き交渉のポイントとは

何をトラブルと受け止めるかは、人それぞれかもしれませんが、立ち退き交渉において「退居してください」「はい、わかりました」という具合に事が運ぶことは、まずありません。

そのため、立ち退き交渉には、進めていく上でのポイントがあります。
これをおおよその手順に沿って説明していきます。

・立ち退き交渉の手順

①解約の申し入れ
②入居者との話し合い
③転居先の斡旋
④明け渡し

①解約の申し入れ

まず、立ち退き交渉を始めるのは6か月~1年前の解約申し入れから始まります。
ただし、いくら法に定めた期間を用意しているとしても、最初に契約解除の通知書類を送る行為に対し、抵抗のあるオーナーも多いでしょう。

これは入居者も同じで、「出て行ってください。法にのっとった方法で通知しています。」という書面がファーストコンタクトであることに、不快感を覚える方もいます。
このような感情は、立ち退き交渉を難航させる要素となります。

おすすめしたいのは、第一段階として、①の前に私信(個人的な手紙)を送るという方法です。
今までの入居に感謝する気持ちや、立ち退きをお願いする理由とお詫びの言葉などを盛り込みます。

②入居者との話し合い

要である交渉がこの②です。
主な話し合いは立ち退き料となります。

家賃6か月分に引越代などが適正な立ち退き料と言われますが、物件や入居者事情により大きな違いが出てくるため、あくまで平均的な目安だと思うと良いでしょう。
法外な金額を投げかける入居者がいると感情的になってしまいがちですが、「何のためにこの交渉を行っているのか」を自分に言い聞かせて、冷静に進めましょう。

ちなみに、物件の一部を店舗として貸している場合は、営業権を立ち退き料に含めるので、高額になるという覚悟が必要です。

③転居先の斡旋

入居者が退居を了解して交渉が成立しても、転居先が決まらないこともあります。
入居者と一緒に転居先を探すこともあると思っておきましょう。

特に老朽化した物件では、長年住んでいて家賃も据え置き(安いまま)という高齢の入居者も多く、同じエリアで同水準の物件を探すことが困難な場合もあります。

④明け渡し

全ての入居者と交渉が成立し、時期がくれば明け渡しが全て完了し、晴れて建て替えなどをスタートすることができます。

以上、立ち退き交渉の手順を大まかにお伝えしましたが、全てがスムーズに行くというのは難しいものです。
理由があり、条件を揃えたにしろ、今までの生活の場を奪うということは、とても繊細な問題です。

交渉が難航する場合は、裁判も視野に入れなければいけません。
ですが、弁護士を立てる、裁判を起こすのは最終手段にしたいものです。

最終手段を必要としないよう、心掛けておくポイントもあります。

立ち退き交渉をスムーズに進めるための事前準備

①オーナーと入居者の関係を良好に保つ

管理会社に全て任せているといっても、入居者との関係を良好に保つ努力をします。
共用部分の照明の問題を指摘されたらすぐ対処しているかなどは、管理会社からの報告でわかることです。

オーナーとして、現在の入居者が心地よく暮らせているかを意識するようにしましょう。
普段の関係が悪いと、立ち退きが難航することは容易に想像できます。

②定期借家制度を上手く活用する

5年、10年後には立て替えるだろうと考えているのであれば、その時点から、新規の契約を定期借家にする方法です。
更新の時にも、家賃を下げるなどの条件を持って、定期借家に切り替えることを相談してみます。
(ただし、定期借家が施行された平成12年3月1日より前の契約の場合は認められません)

③借地借家法への理解を深める

難航する交渉には代理人(弁護士)を立てることになりますが、任せっきりは良くありません。

借地借家法は、アパート・マンションオーナーにとって縁の深い法律です。
借地借家法をはじめとして、関係する法律への理解を深め、代理人の行動・交渉内容・その意図を理解できるようにしましょう。

建て替えであっても、その他の理由であっても、入居者に住まいを明け渡していただくということは、とても難しいものです。
オーナーにとっても頭を抱える問題かもしれませんが、入居者も労力を強いられます。

収益物件を長期で保有するのであれば、「立ち退き交渉」は、オーナーに必ず訪れる試練です。
いざ立ち退き交渉の必要性が発生したときに、しっかりとした対応ができるよう、また、金銭的・精神的負担が軽く済むように準備したいですね。